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十五夜 穆王八駿(ぼくおうはっしゅん)の因

十五夜 穆王八駿の因 20

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 取り敢えず、索冥の話では、この世界から出るには、覇王花の頼みを聞いてやらなくてはならないらしい。
 それを成し得たら、舜も索冥も外の世界に開放され、絳雪や櫻花の薬を買いに行くことも出来るだろう、というのだ。
「――で、俺がその『草食系女子』と、『草食系男子』をくっつけてやりゃいいんだろ」
「……。まあ、そんなところだ」
 覇王花の本音は、舜と娘の大花をくっつけたいのだろうが(いや、本音の本音は黄帝とくっつけたかったのかも知れないが)、今は憶測を口にする必要もないだろう。ただでさえ記憶を失っている舜の理解力が、さらに悪くなってしまう。
 なにより、索冥に判る事なのだから、あの黄帝にも覇王花の『本音の本音』は判っていたはずで、自分が巻き込まれるのが嫌で、舜や索冥にこんな厄介事を押し付けたに決まっているのだ。
 いつもなら、舜が考える黄帝の手の内を、今日は索冥が考えながら、取り敢えず事態は進み始めた。――いや、舜が黄帝の企みを知るのは、いつも痛い目に遭ったあとでのことなのだが。
「さあ、行くぞ」
 索冥の言葉に、
「おまえ、大花っていう娘の顔、知ってるのか?」
 舜は訊いた。
「いや。――まあ、あの女帝の遺伝子なんだから、知らなくても何となく判るというか……。二頭身の、転がしたいような子がいたら、それだろ」
 単純明快な特徴である。
 そして、舜は――。
「あ、オレ、そいつ見たぞ」
 かくして二人は、再び病持ちの少女、櫻花のいた桜の木の下へと足を向けたのだった。
 絳雪は近寄りたくない、ということだったので、少し離れたところで待つように告げ、今、二人の目の前には……。
「あ、やっぱりいた」
 桜の木の真下から頭上を見上げると、所々、桜の薄紅に隠されながらも、ぽっちゃりと丸っこい少女がそこにいた。
 舜と目が合うと、赤い頬をさらに染め、いつもの百倍くらい大人しいのではないか、と思える仕草で、何も言えずにうつむいてしまう。
 舜以外の者には一目で判る、恋の典型的な症状である。
「なあ、おまえ――」
 舜が言いかけた時だった。
 木の幹の裏側から、咳き込むような苦しげな喘鳴が聞こえて来た。
 息苦しさと、気管にこみ上げる病に蝕まれるその姿は、やはり、櫻花のものだった。
「ご、ごめんなさい……。邪魔をするつもりじゃ……」
 涙目になりながら、こんな時に病に倒れる我が身を恥じて謝ろうとする。
「馬鹿か! そんなことより――」
「櫻花!」
 舜が歩み寄るより先に、木の上から、まん丸い少女が下りて来た。
「え……?」
 舜が戸惑うのも構わずに、櫻花の元に膝を折り、心底心配するように、表情を崩す。
 それは、一人ぼっちだ、と言った櫻花の言葉とはちぐはぐで、また、病の感染を恐れない大花の行動は、他の娘たちとは全く違い、これもまた首を傾げるものだった。
 まるで、櫻花の姿に、罪の意識を感じているように。
「やっぱ、縁組より、こっちの方が先だよなァ……」


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