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十四夜 竜生九子(りゅうせいきゅうし)の孖(シ)

十四夜 竜生九子の孖 22

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「クソッ! ここを離れないと――。今、魂替えされたら、この体は耐えきれない」
 舜の入っている耀輝の体は、間違いなく死んでしまうだろう。今だって、舜の気力で持っているようなものなのだ。舜よりずっと魔力の弱い耀輝が体に戻ったとしたら、命はすぐに尽きてしまう。捲簾大将を大切に思う耀輝の魂を宿したまま――。
「動け! 氷気に封じられていても、少しくらいは動けるだろう?」
 灰であるデューイの体が、あの程度の氷気に完全に封じられてしまうとは思えない。
 何より、舜の体は立って歩くことも侭ならず、少し這い進むだけでも、息が乱れる。
 ここは、あの地下の真上ではないとはいえ、完全に魂替えの場の中に取り込まれている。どちらか一人が場から抜けなくては、再び魂替えが成立してしまう。
「もういいのです」
 耀輝が言った。
「いいって――」
「あなたも、その体から出られるのです。そして、私は自分の体に戻るだけ」
 迸る力が、さらに砂を震わせた。
 もう、呪も終盤に近いに違いない。
「どいつもこいつも! ――おい、捲簾大将! 魂替えをやめるんだ! この女はあんたの……ことを……」
 ただ叫んでいるだけだというのに、息が切れて続かない。
 これが、自分の体なら、こんなことにはならなかったのに――。
「あんたも……この女のことを……」
 視界が白く霞み始め、脈が緩慢になって行くのが判った。
「もう、捲簾大将様に、その言葉は届かないでしょう……。私の裏切りに、さぞ腹を立てていらっしゃるはず……」
 ――そんなことは……。
 舜の言葉は、もう声にはならなかった。
 お互いの気持ちを知ることが出来たなら、きっと誤解は解けるはずなのに。
 耀輝のことを、醜いなどとは思わないはずなのに。
 自分の力で動けないのなら、あの二人を呼びもどさなくては――。
「索……」
 言いかけたが、それ以上の言葉は続かずに、途端、地下から凄まじい突風が駆け抜けた。
 それは刹那のことであったが、舞い上がった砂の数は半端ではなく、天まで届きそうなほどに、空高く砂漠を覆ってしまった。




「おい、あれ!」
 最初に気付いたのは、索冥だった。
 もちろん、デューイもすぐに気付き、
「……砂嵐?」
「いや、違う。あれは地下から地上に放たれた『呪』だ」
 その砂は空を覆い尽くす勢いで刹那に広がり、辺り一帯、砂の色に染め変えてしまった。
「あそこには舜たちが――」
「戻ろう」
 二人がその場に駆けつけた時、砂煙はまだもうもうと舞い続け、目さえ開けることが出来ない有り様だった。それでも、
「舜!」
 全身に砂を被って倒れる女の姿を見つけ、デューイはその場に駆け出した。抱きあげた女はほとんど意識がないようで、ただぐったりと横たわっている。
 だが――。
「オレはこっちだ」
 その声は、さっきまでとは打って変わって、弱々しい響きもなく、しっかりとした口調で聞こえて来た。――が、姿は見えない。
「え……? 舜?」
 何が起こったというのだろうか。
「捲簾大将が地下から地上に向けて魂替えの呪を放った。そこにいる女は、身も心も耀輝だ」
 今度は舜と耀輝が魂替えにより、それぞれ、デューイの体と、耀輝の体に交換され、今、デューイの灰の体には舜、耀輝の体には元通り耀輝の魂が入っているのだという。
 ここで再び、魂替えが行われた、という訳である。
 そして、その魂替えは、皆を元通りにしてやろう、という親切心からのものではなく、恐らく、耀輝を殺すためのものであったに違いない。
 自分を裏切った、愛しい女を……。


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