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十四夜 竜生九子(りゅうせいきゅうし)の孖(シ)

十四夜 竜生九子の孖 19

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「あんたが誰かの血を啜れば、今みたいに水分の多い実が出来る。そして、今、オレの体を持つデューイは、あんたに血を吸い尽くされて死んだところで、一雫の《朱珠の実》で甦る。あとは、《朱珠の実》が灰の体から離れる前に、オレの氷気で凍らせてしまえばいいことだ」
 実際に、舜の体を使って氷気を放ったのは、デューイだったが。
 さすがに、今までずっと見て来ただけあって(もちろん、見て来ただけではなく、二人で戦うための練習もしたし、どうすれば気を放てるのか、どうやって気を選ぶのか、その全てを共にやって来たのだが)、デューイの気の放ち方は、初めてにしては上出来だった。
 そして、舜の体から放たれた氷気で、《朱珠の実》の水分と共に、耀輝の灰の体は無数の氷になってしまったのだ。
 あとは、凍って動けなくなった耀輝の体(灰)を回収するだけである。
「早くビンに詰めろよ」
 と、瀕死の女の体で、口だけは偉そうに、舜は言った。もちろん、舜の姿のデューイへの言葉である。
 何しろ、あのビンを持っているのは、今は舜の体を持つデューイなのだから。
 だが――。
「ごっ、ごめん! あのビン、割っちゃって――」
 デューイが真っ青になって謝ると、
「はああっ? 冗談だろ? 馬鹿じゃないのか! あのビンを割って、どうやってあの体を回収するんだよ!」
「ごめん! でも、ビンを割って出ないと、君は彼女と体を取り替えられそうになってたから――」
「で、慌てて割って外に出て、余計にややこしい体の交換になった訳か?」
「ごめん……」
 どこまでも裏目に出る青年である。
 実を言うと、あのビンには封印こそかかってはいなかったものの、デューイが外に出たまま意識を失ってしまった場合など――デューイが自分の意思でビンに戻れなくなってしまった時のために、呪を唱えると、ビンの中に回収できる縛がかかっていたのだ。もちろん、そんな親切な縛をかけてくれたのは、デューイのことを案ずる黄帝なのだが。
 そのビンが割れて無くなってしまったとなると……この砂漠の砂の上から、凍りついた無数の灰だけを分別して拾い集める、というのは不可能である。
「こいつ……本当に、使えない」
 体の回収方法がなくなってしまったのだから、身動きが取れない。
「磁石かなんかにくっついて来ないかな?」
「砂鉄かっ!」
 冗談なのに……、とデューイが呟いたことは――まあ、別に書き留めておくほどのことでもないだろう。
「――でも、牡丹の花の精霊じゃなかったのなら、一体、何だったんだろう?」
 それに応えたのは、舜でも索冥でもなく――、
「彼女は、砂漠に棲む蟻たちの天敵、ウスバカゲロウの幼虫です」
 と、何処からともなく、のんびりとした響きの声が聞こえてきた。
 そして、その声を聞いた舜は、
「クソっ、また、こいつか……」
 と、悪態づいた。もちろん、その声の主には聞こえないように。
「黄帝様!」
 歓びを表わす声で、デューイが言った。が、姿は見えない。
「少し思い出したことがあったので、来てみました」
 再び、声。
 ――白々しい。
 最初から全部知っていたクセに、と、舜が心の中で吐き捨てたことも、これ以上は触れないでおこう。
「『金・緊・禁』のたがのことですが、この辺りに封印したと思ったのは私の勘違いで、実際には、この辺りを通りかかった時に出くわした魔物に嵌めたのでした。確か、成虫になることなく、罠にかかった獲物を喰らい、魔力を蓄え続けていた、アリジゴクでしたが」
 黄帝の言葉に、一同の視線が、足首に『緊箍児』を嵌められた娘――舜の方へと集まった。
 アリジゴク――ウスバカゲロウの幼虫である。
「こいつ、魔物だったのか……」
「では、私はこれで帰ります」
 そう言うと黄帝は、さっさとその場から立ち去ってしまった。――いや、最初から姿はなかったが。
 我が子が困っている様子なのを見ても、決して助けたりはしないのである、この青年。
 かくして、牡丹の花の精霊の正体は割れたのだが……。


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