上 下
342 / 533
十四夜 竜生九子(りゅうせいきゅうし)の孖(シ)

十四夜 竜生九子の孖 8

しおりを挟む


「この間、古い知り合いが持っていた三つのたがの内の一つが、かつてガンダーラと呼ばれたペシャワルの地で見つかった、とTVでやっていたのですよ」
 どこでそのTVを見たのかは定かではないが、どうせ、どこかの女のところだろう、と舜は話を聞きながら、思っていた。
 何しろ、ここは秘境と呼んだ方がいいような山水画の世界なのである。TVはもちろん、ない。新聞だって配達などしてもらえない。
 そんな訳で、黄帝の話よりも、どこの女のところなのか、の方が気になっていたのである。
 当然、舜の母親以外の女の処へ行くなど許せないところだが、舜の母親に何かされるのは、もっと許せない(いや、何かしたから舜が生まれたのだが)。何度死んでも、馬鹿もマザコンも治らない、と黄帝に言われようと、それだけは譲れない『愛』なのだ。
 睚眦がいしの氷の息を躱しながら、舜は、
「どこの女の家だよ?」
 と、訊きたい気持ちを堪え(本当は訊いて、母親に告げ口に行きたかったのだが――。もちろん黄帝に愛想を尽かして、自分だけを見てもらうためである)、
「そのたがが何なんだよ?」
 と、ぶっきらぼうに訊いた。
 すると――。
「おや、今日は素直ですねぇ」
「……」
 我が子に関わりのあることなのだから、いくら十代の心のまま成長していない舜でも、大人にもなる。この青年にとっても孫になるのだから、少しは――いや、何も言うまい。言っても毎回虚しくなるだけなのだから。
 黄帝の話は、厭味の後に続いた。
「それぞれ、『金・緊・禁』という古の宝なのですが、三つとも見た目は同じ金色の輪で、その内の一つは、魔を封じるための『呪』がかかっている、という、今の彼にぴったりのたがなのです」
「……」
 ――魔封じ……。
 確かに、睚眦の乱暴な魔力を封じることが出来れば、それはそれで役立つだろう。
 だが――。
「それで魔力を封じれば、霊力を持てるのか?」
 問題はそこである。
「そうですねぇ……。あと九十年ほどありますから、何とかなるんじゃないでしょうか」
「は? 九十年……?」
 この青年の姿の父親の言うことは、いつも今一解らない。――と、思っていると、
「そうと決まれば、いつまでも卵の中で遊んでいないで、こっちに戻って来てはどうですか?」
「……卵の中?」
 さらに解らない言葉であったが――いや、確かあの時、卵を持ったままクラっと来て、気がついたら卵が割れて、この孖龍が……生まれたのではなかったか?
 卵の中、ということは、まだ生まれていないのか?
 あれから十年も経ったのに?
 あと九十年ということは、卵が孵るまでには、百年の時が必要なのだろうか……?
 ぐるぐると回る頭の中で考えていると、睚眦の氷の息を避けるのが、刹那、遅れた。
「あ――」
 と思った時にはすでに遅く、
「舜!」
 デューイの声と共に、冷たい氷気が全身を巡る――。


しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

高校からの帰り道、錬金術が使えるようになりました。

マーチ・メイ
ファンタジー
女子校に通う高校2年生の橘優奈は学校からの帰り道、突然『【職業】錬金術師になりました』と声が聞こえた。 空耳かと思い家に入り試しにステータスオープンと唱えるとステータスが表示された。 しばらく高校生活を楽しみつつ家で錬金術を試してみることに 。 すると今度はダンジョンが出現して知らない外国の人の名前が称号欄に現れた。 緩やかに日常に溶け込んでいく黎明期メインのダンジョン物です。 小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。

月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚

浦出卓郎
ファンタジー
戦後―― 人種根絶を目指した独裁政党スワスティカが崩壊、三つの国へと分かれた。 オルランド公国、ヒルデガルト共和国、カザック自治領。 ある者は敗戦で苦汁をなめ、ある者は戦勝気分で沸き立つ世間を、綺譚蒐集者《アンソロジスト》ルナ・ペルッツは、メイド兼従者兼馭者の吸血鬼ズデンカと時代遅れの馬車に乗って今日も征く。 綺譚―― 面白い話、奇妙な話を彼女に提供した者は願いが一つ叶う、という噂があった。 カクヨム、なろうでも連載中!

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

約束の子

月夜野 すみれ
ファンタジー
幼い頃から特別扱いをされていた神官の少年カイル。 カイルが上級神官になったとき、神の化身と言われていた少女ミラが上級神官として同じ神殿にやってきた。 真面目な性格のカイルとわがままなミラは反発しあう。 しかしミラとカイルは「約束の子」、「破壊神の使い」などと呼ばれ命を狙われていたと知る事になる。 攻撃魔法が一切使えないカイルと強力な魔法が使える代わりにバリエーションが少ないミラが「約束の子」/「破壊神の使い」が施行するとされる「契約」を阻む事になる。 カタカナの名前が沢山出てきますが主人公二人の名前以外は覚えなくていいです(特に人名は途中で入れ替わったりしますので)。 名無しだと混乱するから名前が付いてるだけで1度しか出てこない名前も多いので覚える必要はありません。 カクヨム、小説家になろう、ノベマにも同じものを投稿しています。

西遊記龍華伝

百はな
歴史・時代
ー少年は猿の王としてこの地に君臨したー 中国唐時代、花果山にある大きな岩から産まれた少年は猿の王として悪い事をしながら日々を過ごしていた。 牛魔王に兄弟子や須菩提祖師を殺されその罪を被せられ500年間、封印されてしまう。 500年後の春、孫悟空は1人の男と出会い旅に出る事になるが? 心を閉ざした孫悟空が旅をして心を繋ぐ物語 そしてこの物語は彼が[斉天大聖孫悟空]と呼ばれるまでの物語である。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

処理中です...