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十四夜 竜生九子(りゅうせいきゅうし)の孖(シ)
十四夜 竜生九子の孖 8
しおりを挟む「この間、古い知り合いが持っていた三つの箍の内の一つが、かつてガンダーラと呼ばれたペシャワルの地で見つかった、とTVでやっていたのですよ」
どこでそのTVを見たのかは定かではないが、どうせ、どこかの女のところだろう、と舜は話を聞きながら、思っていた。
何しろ、ここは秘境と呼んだ方がいいような山水画の世界なのである。TVはもちろん、ない。新聞だって配達などしてもらえない。
そんな訳で、黄帝の話よりも、どこの女のところなのか、の方が気になっていたのである。
当然、舜の母親以外の女の処へ行くなど許せないところだが、舜の母親に何かされるのは、もっと許せない(いや、何かしたから舜が生まれたのだが)。何度死んでも、馬鹿もマザコンも治らない、と黄帝に言われようと、それだけは譲れない『愛』なのだ。
睚眦の氷の息を躱しながら、舜は、
「どこの女の家だよ?」
と、訊きたい気持ちを堪え(本当は訊いて、母親に告げ口に行きたかったのだが――。もちろん黄帝に愛想を尽かして、自分だけを見てもらうためである)、
「その箍が何なんだよ?」
と、ぶっきらぼうに訊いた。
すると――。
「おや、今日は素直ですねぇ」
「……」
我が子に関わりのあることなのだから、いくら十代の心のまま成長していない舜でも、大人にもなる。この青年にとっても孫になるのだから、少しは――いや、何も言うまい。言っても毎回虚しくなるだけなのだから。
黄帝の話は、厭味の後に続いた。
「それぞれ、『金・緊・禁』という古の宝なのですが、三つとも見た目は同じ金色の輪で、その内の一つは、魔を封じるための『呪』がかかっている、という、今の彼にぴったりの箍なのです」
「……」
――魔封じ……。
確かに、睚眦の乱暴な魔力を封じることが出来れば、それはそれで役立つだろう。
だが――。
「それで魔力を封じれば、霊力を持てるのか?」
問題はそこである。
「そうですねぇ……。あと九十年ほどありますから、何とかなるんじゃないでしょうか」
「は? 九十年……?」
この青年の姿の父親の言うことは、いつも今一解らない。――と、思っていると、
「そうと決まれば、いつまでも卵の中で遊んでいないで、こっちに戻って来てはどうですか?」
「……卵の中?」
さらに解らない言葉であったが――いや、確かあの時、卵を持ったままクラっと来て、気がついたら卵が割れて、この孖龍が……生まれたのではなかったか?
卵の中、ということは、まだ生まれていないのか?
あれから十年も経ったのに?
あと九十年ということは、卵が孵るまでには、百年の時が必要なのだろうか……?
ぐるぐると回る頭の中で考えていると、睚眦の氷の息を避けるのが、刹那、遅れた。
「あ――」
と思った時にはすでに遅く、
「舜!」
デューイの声と共に、冷たい氷気が全身を巡る――。
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