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十四夜 竜生九子(りゅうせいきゅうし)の孖(シ)

十四夜 竜生九子の孖 4

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 それは、卵から生まれるなり、高い天井に舞い昇り、艶やかな白い鱗と、帝王の覇気を見せつけた。
「双頭の龍!」
 背には、黒い翼もある。
 通常、この中国の龍は翼がなくても飛べるため、翼のある龍は応龍と呼ばれ、黄帝に所縁ゆかりの龍だと言われている。
 蚩尤しゆうとの争いで黄帝につき、犯した殺生のために邪気を帯びてしまった龍だとも――。
 だが、この龍は、それらとも違う。
 何より、一つの体に、首が二つあるのだから。
「やれやれ、やはり、あなたの望みの姿とは違ってしまいましたか」
 生まれおちた――いや、生まれ昇った双頭の龍の姿を見て、黄帝が言った。
 その言葉通り、白龍の姫が望んでいたのは、自分と同じ白い鱗に、翼のない体――首も一つの、正当な龍の姿であったのだろう。明らかに異形なその双頭の龍の姿は、彼女の望みではなかったに違いない。
「これって……」
「君の子でもあるのですよ、舜くん」
 その黄帝の言葉は、予期していなかった、と言ってもいいくらい現実未のないもので、それでいて、そうとしか思えない現実の一つでもあった。
 何しろ、舜は白龍の姫と会うのは、十年ぶりである。
 確かに、十年前に契りを交わし、彼女の子孫を残すために、共に過ごした。
 その時に彼女は身ごもり、舜の子を宿したのだろう。
 その後、舜は十年ほど死んでいた訳だが、彼女は卵を生み、大切に守ってきたに違いない。美しい姿で生まれるように願いを込め、黄帝の知識を得られるように書庫に預け、それはそれは珠のように愛して育てて来たのだ。
 それが、こんな姿に……。
「オレの……せい? オレが触ったから、黒い翼が――」
「確かにあれは、君の翼ですねェ」
「……」
 やはり、舜のせいなのだ。これには責任を感じずにはいられない。
 そして、双頭の理由は――。
「加えて、君と共にいることが望みの、デューイさんの想いも受け継いでしまったのでしょう」
「……」
 舜と一緒にいたい――そのデューイの深奥の望みが、龍の姿に取り込まれてしまったのである。双頭の龍として形作られるほどに。
 デューイなど、申し訳なさのあまり、声も出ない様子である。――いや、灰なので声は出せないのだが、鼓膜を震わせることで、言葉を伝えることは出来る。
 今は、とてもそんなことを考える余裕は無いようだが。
 竜生九子りゅうせいきゅうし――。親と同じ姿になれなかった龍の呼び名である。
 白龍の子でありながら、黒い翼を持ち、双頭の首を持つ、孖龍ふたご――親のようにはなれない、龍。
「ごめん。オレ、知らなかったから――」
 舜が言いかけると、
「それはどういう意味じゃ?」
 冷ややかな眼差しが、舜を射抜いた。白龍の姫の眼差しである。――いや、子を持つ親を『姫』と呼び表わすのは、もうおかしいだろう。ここは、白龍女公とでも呼んでおこう。
 そして、頭上にいるのは、紛れもない白龍王……。
「どういう意味って、オレのせいで子供がこんな姿になったから――」
「こんな姿? あの子が『醜い異形の子』であるとでも?」
「――」
 思わず、そこにいる誰もが、言葉に詰まった。
 自分たちが思っていた言葉が、瞬時に過ちであると解したせいでもあるし、母たる白龍女公にとっては、子供がどんな姿であろうと、ただ愛しいものでしかないのだ、と知ったせいでもある。


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