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十四夜 竜生九子(りゅうせいきゅうし)の孖(シ)
十四夜 竜生九子の孖 2
しおりを挟む宝石箱のようなビロードの内装に、大切に納められていたのは、薄青い色をした、輝くばかりに美しい卵であった。大きさは、にわとりの卵よりも大きく、駝鳥の卵を連想させる。
「何の卵だろ?」
形のいい眉を少し寄せ、箱の中の卵を色々な角度から眺めて、舜は言った。
「割ったら大変だから、触らない方が……」
灰の身では――いや、片思いの身では止める力もないため、デューイの方は言葉のみである。――いや、実はこの青年、この姿になったことで――ああっ、話をしている間に、舜が卵を取り出してしまった!
「うーん、なんか、知ってるような……」
と、考えるように首を傾げ、さらに眉を寄せている。
「前に食べたことがあるとか?」
……もう少しマシな発想はなかったのだろうか。
デリケートなのか、デリカシーがないのか判らないデューイの言葉は、無視された。もちろん、その少年に無視されることは日常茶飯事なので、この青年の方もメゲたりはしない。
何しろ、愛、というものがそこにはあるのだから――。一方通行だが。
とはいえ、動物園でも、調理場でもないここに、卵は余りにも不似合いである。
「これ、卵に見えるけど、実は何かの結界か封印じゃないのか? 中の気が全く読み取れない」
「ああ、そういえば、天帝様のあの結界も、卵型になっていたような……」
いつぞやの牽牛と織女の閉じ込められた世界の結界のことを思い出し、デューイもそっと卵に触れてみる。
確かに舜の言った通り、そこには何の気配も読み取れない。灰の姿になったことで、以前の申し訳程度の能力ではなく(それでも人間であった頃とはかけ離れた力だったが)、純粋な夜の一族の力のみとなり、重き力を得ることになったデューイでさえも、卵の中身が読みとれないのだ。
恐らく、卵の形、というのは、一番強く、中身を守るのに適した形であるのだろう。
多角形なら面の中心が脆くなるし、球体の方が守りの力は強くなる。
「――君が知っているような気がするなら、やっぱり、あの時の天帝様の結界に関係あるのかなァ……」
二人がそうして、呑気に話をしていた時だった。
書庫の扉が不意に開き、姿を見せたのは、言わずと知れた……。
「えーと……。もしかして、それに触ってしまいましたか」
卵を手に、ああでもない、こうでもない、と話をする二人に、少し間延びした声が、それでも恍惚となるほどの音で、耳に届いた。
ちっとも困った風でないのに、困ったように言う、銀髪の青年、黄帝である。
一応、舜の父親、ということになってはいるが、母方から見れば、遠い先祖に当たる人物でもある。もちろん、彼がいつ生まれ、年は幾つか、など誰も知らない。この世がまだ太初と呼ばれる頃から存在していた者のようでもあるし、今一つ得体が知れない。
だが、月の精霊のように美しい青年であることは、確かであった。
足首まで届きそうな輝かしい髪も――実はただの白髪なのだが――それでも美しく見えるのだから、やはり、この青年、ただ者ではない。
五色の糸で模様を織り出した深い青灰色のローブも、タイトに仕立てた同色の繻子も、蹲る蛟と珠玉の首飾りも、緑色の極上の組み紐も、彼の神秘には敵わない。
「これはどういうことなのですか、黄帝? ここでなら『和氏の璧』の如き《完璧な者》が育つと申したではありませんか」
高貴な身分を表わすような、極上の織物に包まれる、清廉な美しさの美姫が言った。
もちろん、舜には――デューイにも、その美姫には見覚えがある。たとえ、あの圧倒されるような霊力が開放されていなくても、透き通るような色の白さと、黄帝にさえ頭を下げることのないその尊さは、忘れられるはずもない。たとえ、この十年間、一度も会っていなくても――。
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