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十二夜 貨殖聚斂(かしょくしゅうれん)の李(り)
十二夜 貨殖聚斂の李 16
しおりを挟む結局、舜はあの《貨殖聚斂の李》に、何を望んだというのだろうか。
「え? あの実?」
目を醒ました舜にそのことを尋ねると、舜は別に悪びれた風もなく、
「望みを叶えてくれる実なら、一杯あった方が良いと思って、庭に植えて育ててたんだ」
「……」
絶句である。物欲の塊というか、愚かというか……そんな安直な理由で、この蓬莱山に生命あるものを植えてしまうなど。
あの《貨殖聚斂の李》を増やそうと考えるなど――。いや、芽を出さないはずの《貨殖聚斂の李》を、自分が望むことで芽を出させようと考えるなど……。
そのために舜は、せせらぎの水を水杓ですくっては、庭に撒いて水やりをしていたのだろう。
一個でも欲深い実なのに、それを幾つも手に入れようと思うなど……やはり、あの《雪精霊の結晶》を渡すべき相手ではなかったのかも知れない。
――クソッ! あんな大切なものを、こんな物欲の塊に!
索冥のその気持ちも、少なからず解っていただけることだろう。
「索冥にも、みんなにも一個ずつあげるから」
舜が言った。
気前が良いのか、みみっちいのか……たったの一個なのか。
「――で、残りの実は、どうするんだ?」
蚩尤たちの生気を糧に、血肉を養分に、あれだけ立派な木に育った《貨殖聚斂の李》が、四つ五つの実で終わりのはずがない。
「ふふんっ」
これ以上はないほど、得意げな顔である。
「あの実がどんな実なのか見ただろ? あれは、自分が育つためなら――持ち主に育つことを望まれたら、周りの全てから生気を奪って育つような実だ。使えば使うほど不幸をばらまく」
「知ってるもん」
何しろ、あの場にいて、舜自身も生気を奪われたのだから。
「これからはずっと、かーさまと暮らすから、ぼくはいらない」
「……」
もう会えるつもりになっているのだから、やはり子供である。
それに、ぼくはいらない、とは……。
《貨殖聚斂の李》――。
その実に限らず、この蓬莱山の『生命のない白い土の中』では、本来なら木など育ちはしない。それ以前に、あれは芽を出さない《貨殖聚斂の李》なのだから。育て、というのが持ち主の望みでもなければ、芽を出したりはしなかっただろう。
『種が芽を出し、花をつけ、たくさんの実を結ぶように』
そんな、種には当たり前のことを望みとして持ち出された《貨殖聚斂の李》は、一体、どんな気持ちになったのだろうか。
手にした人間の望みを叶えてやることはしても、自分が芽を出すことを望む人間が現れるなど――。
「あのなァ、あれは――」
望みを叶えた後は、ただの実に戻るのだ。何度も望みは託せない。
つまり、芽を出し、花を咲かせ、実を結んで、舜の望みを叶えた後、手元に残るのは……。
「まあ、いいか」
どうせすぐに実が生り、気付くことになる。そうなったら、馬鹿さ加減を思いっきり笑い飛ばしてやることにしよう。
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