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七夜 空桑(くうそう)の実
七夜 空桑の実 14
しおりを挟む「ならば、今一度、あの異国の若者を人質に取るしかあるまい」
炎帝の視線が、デューイの方へと、移り変わった。
「あ――」
と、舜は声を上げたが、デューイの脇に、一人の女が立つ方が、速かった。
凄まじい美貌を持つ、妖女である。長き黒髪を背に垂らし、紅を引いた唇の端を、持ち上げて、いる。
稀代の美姫、貴妃――。
黄帝に言わせると、以前の妻であり、炎帝に言わせると、黄帝の娘である、という女である。
「また逢ったのう、舜よ。大した成長も見られぬようだが」
貴妃が言った。
長く伸びた赤い爪は、デューイの喉を、狙っている。
「オレはちゃんと成長してるぞ。黄帝が、まだオレを大人だって認めてないから、この格好のままでいるだけで、本当は、ちゃんと一年半、年を取ってるんだ」
そういう意味の成長ではないと思うのだが……この少年、ちょっと、理解力が屈曲している。
それに、姉弟の対面の感慨は、ないらしい。
まあ、黄帝に何人子供がいて、過去に何人妻がいたかなど、いちいち気にかけていては、ノイローゼになりかねないのだが。
「では、始めようか、黄帝の子よ――いや、盃の保管者。そなたが攻撃を避ければ、あの若者に当たる、ということを覚えている内に」
炎帝が言った。
「この卑怯者」
「今さらの言葉だ。時間的な余裕があれば、遊んでやってもいいが、今はそれほど馬鹿になる積もりもない。せめて、苦しまぬよう、一撃で死なせてやろう」
「オレが礼を言うとでも思ってるのか」
フッ、と愉しげな笑みが、零れ落ちた。
そして、炎帝の手は、舜を狙って、持ち上がった。
もうこれで終わりだ、というのだろうか。舜には、何の手立てもないのだ、と。
炎帝の手のひらに炎気が集まり、ゴオ、っと凄まじい炎が、うねりを上げた。
「オレ、殺されるほど、こいつに悪いことしたっけな……」
その舜の呟きは、炎のうねりに、掻き消された。
「クソォっ! 黄帝っ、オレが死んだら、デューイを助けに来いよ! オレ、攻撃避けて、あんたに一生、厭味を言われ続けるくらいなら、死んだ方がマシなんだからな!」
舜は、虚空高く、叫びを上げた。
「はあっ!」
炎帝の手のひらから、炎が、龍の如き姿で、解き放たれた。
カッ、と舜の双眸が、赤光を放った。
避けてはいけない、とは言われているが、受け止めてはいけない、とは言われていないのである。もちろん、舜の力で受け止められる攻撃なら、避ける練習など必要もなかったのだが……。
それでも舜は、防御を構える腕に氷気を込め、一歩も引かずに迎え撃った。
刹那であった。
「誰だ?」
炎帝が言った。
同時に――。
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