華夏帝王奇譚 §チャイニーズ・バンパイア・ファンタジー§

竹比古

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七夜 空桑(くうそう)の実

七夜 空桑の実 8

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 黒い――。
 黒いばかりの、空間、である。
 不思議な――。
 広さも何も測り得ない――狭いのか広いのかさえも解らない、その空間には、中国装飾の、美しい寝台が、ある。
 今、そこで、喘ぎを零している青年が、いる。
 背後から、男の逞しさに貫かれ、苦しげな声を、上げている。
「あ……はあ……っ。ゆるし……赦し……くださ……も……」
 痛みだけしか感じないほどに、何度も精液を搾り取られ、デューイは、絶え絶えの声で、懇願した。それが、何度目の懇願になるのかは、判らない。
 指先に追い詰められる官能も、双丘の中心に打ち込まれる肉塊も、疲れ果てたデューイの肉体を、激しい熱で満たしているのだ。
 射精は――何度しただろう。
 凄まじい射精感で、萎える間もなく、数度、追い詰められたことは覚えている。それは、今まで知ったことのない、苦しいばかりの射精であった。
 苦しい、のだ。
 あまりに快楽が強すぎて、あまりに続けて放ち過ぎて。
「もうこれまでか、異国の若者よ? 黄帝の子は、一週間、犯し続けても、私に赦しを請いはしなかったぞ」
 炎の如き麗人、炎帝は、鷹のような眼差しで、皮肉げに言った。
「舜……?」
「あれは気丈な子だ。まだほんの子供だがな」
 スゥ、と指先が、先端を、なぞった。
「ああっ!」
 デューイは、それだけのことで、昇り詰めた。
 白濁した精液が、血の色を混ぜて、わずかに、飛び散る。
 先端に鋭い痛みが走ったが、それでも、まだ快楽の方が、強かった。そして、強烈な射精感による、苦しみも。
「く……」
 この責め苦に、舜は、一週間も耐えていた、というのだろうか。その麗しき闇人の指で触れられれば、たちまち勃起し、射精してしまう、というのに。
 その苦しみの中、一週間も。
 デューイは、脱力感と苦痛の入り混じる中、その感情の変化のままに、指を結んだ。
「ほう」
 と、炎帝が、声を上げた。
 琥珀色だったデューイの双眸は、血のように赤く、濡れ光っている。その蒼白き面貌に相応しい、『夜の一族』の美しき色に。
 唇からは、鋭い乱杭歯が突き出し、彼が『夜の一族』の一人であることを、示している。
 吸血鬼――人は、彼らをそう呼ぶだろうか。美女の血を吸い、長き生命を手に入れている一族である、と。
 だが、彼らのことを、もっと知る者なら、こう言ったに、違いない。
 彼らは、死に切れない不遇な人々なのだ、と――。
 そう。不死ではなく、死に切れないのだ。
 絶え間ない喉の渇きと、襲い来る悪寒と戦いながら、彼らは、死ぬことも出来ずに――死に切れずに、生きている。
 それが、彼らの哀しい宿命、なのだ。
 もちろん、デューイは、一年半前まで、普通の人間だった訳だが、貴妃という同族の女に咬まれ、『夜の一族』の宿命を背負うことに、なった。
 舜が、デューイの面倒をみているのも、そのためであり、デューイが『夜の一族』の体質に慣れ、血への欲望を抑えられるようになるまで、面倒をみることになっている。
 何しろ、血への欲望を抑えることが出来ないデューイが街へ出れば、たちまち、人間を襲うようになることは、目に見えているのだから。
 激しい喉の渇きと戦いながら生きて行くことは、何よりも苦しいことなのだ。
「その姿ならば、もう少し楽しめそうだ」
 炎帝が言った。
『夜の一族』の姿になり、凄まじい力で抵抗しているデューイを、いとも容易く押さえ付けて、いる。
 闇のように、黒き双眸のままで。
 彼もまた、黄帝と同じく、一族の中でも、ズバ抜けた力を持つ、一人なのだ。
 一族は、長き時の中、血族結婚を繰り返していたり、他種族の血を混ぜていたりするために、その体質も、安定していない。それこそ、色々なタイプの者が、生まれて来る。
 黄帝や炎帝のように、凄まじい力を持つ者や、力を持たない代わりに、血を糧とせずとも生きて行ける者……その種類は、様々である。
「ぐあああ――っ」
 と、デューイは唸りながら、鋭い乱杭歯を、剥き出しにしている。
『夜の一族』の姿となったその様は、美しく神秘的なものでも、ある。
「さて、続きだ。何も知らない子供もいいが、慣れた体も悪くはない」
 再び、危険で、淫靡な時間が、始まった。
 炎帝は、牙を剥くデューイに、てこずりもせず、その肉体を、再び奥へと、埋めている。
 この黒き麗人のことは、デューイもよく知っている訳では、ない。
 ただ、遥か昔、黄帝の手によって封印され、その封印を、稀代の美姫、貴妃が見つけて解いた、という。――いや、封印を解くための血を貴妃が与え、炎帝は、その血を得て、自ら、黄帝の封印を焼き尽くして、長き眠りから醒めたのだ、と。
 そして、今、《聚首歓宴の盃》という、呪われた盃を、求めている。
「ああっ!」
 また、快楽を放つ声が、上がった。
 だが、それもまた、長き夜の一つでしか、なかった……。




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