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六夜 鵲(チュエ)の橋
六夜 鵲の橋 12
しおりを挟む「チャイナ・タウンは、外の人間に捜せる場所ではありません。――いえ、あなたが別なことは解っていますが、中国人は、見も知らぬ人間に、自分たちの哥員(兄弟)を売るようなことはしないのです。人に訊いて回ることは、出来ません」
「それじゃあ、どうすれば……」
「あなたの御力で、少年たちの居場所を突き止めることは出来ませんか? 神仙術に必要なものがあれば、出来る限りご用意いたします」
そんなことを言われても、さっきも言ったように、デューイにはそんな力はないのである。
小鋭は、すっかりデューイを、神か何かだと思っているようだが。
もちろん、五感は、人の何倍も優れているし、第六感も働くが、それは、見も知らない人間を対象に出来るものでは――。
「あ――。舜の息遣いや匂いなら、判るかも知れない」
デューイは、思い当たったその考えに、顔を上げた。
「は?」
「あー、えーと、その……チャイナ・タウンの範囲くらいなら――舜の居場所なら、集中すれば判るかも……」
犬科の動物よりも、さらに優れた嗅覚なのだ。たくさんの匂いが混じっているとはいえ、舜の匂いなら、時間をかければ、掴めないこともない。
もちろん、舜がチャイナ・タウンの中にいれば、ということが大前提なのだが。
それを聞いた小鋭の顔が、見る間に明るく、晴れやかになった。
まさしく、デューイを神として崇めている顔である。
本当は、ただの吸血鬼なのだが。
デューイは、照れ臭い思いで、車を降りた。
ゆっくりと目を閉じ、鼻と耳に、全神経を集中させる。
チャイナ・タウンは、目前である。
数え切れないほどの音と匂いが、息づいている。
下水道を歩くネズミの足音さえ、聞こえて来る。
誰かがベッドの中で、寝返りを打った。
本のページを捲る音も、する。
だが、舜の息遣いは――。
舜の匂いは――。
一〇分、二〇分――。
刻々と時間は、過ぎて行く。
バサ、っと鳥が、飛び立った。
「うーん……」
舜は、目を醒ました時からずっと、そうして、今の状況を考えていた。
何しろ、何故こんなところにいるのかも、どうしてこんなところに来たのかも、全く判らないままなのだ。
ここは、見た限りでは、河である。
河、といっても、普通の河ではない。さらさらとした、光る砂の流れる、大きな河である。
辺りは紺黒で、夜空のようにも、見える。――いや、宇宙だろうか。
それにしては、呼吸が無理なく出来るのだが。
そして、その光る砂の河には、舜だけでなく、他にも何人もの少年たちが、きれいに二列に並ばされていた。
河岸ではなく、河の中に。
ちょうど、対岸へと橋を架けようとするかのような、配列である。
それは、今、やっと三分の一、というところだろうか。橋を架けるつもりなら、あと三分の二にあたる少年が必要、ということになる。
しかし、一体、何故、こんなところにいるのだろうか。
そもそも、ここは何処なのか。
解らないことだらけである。
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