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五夜 木乃伊(ミイラ)の洞窟(ペチェル)

五夜 木乃伊の洞窟 22

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「悪魔と契約を結んで、超人的な力を手に入れた奴がいただろ? 覚えてるだろ?」
「うーん……。よくある話ですねぇ。――有名なところでは、ファウストですか」
「違うったらっ。それなら、ぼくだって覚えてる。――ほら、最初は、その力で莫大な富を築いたけど、最後に悪魔の計略に掛かって、月に飛ばされちゃった魔術師がいたじゃないか。――ぼくが小さい頃、『何でも出来て便利だから、魔法使いになりたい』って言って、そういう本を、お父様の書庫から引っ張り出して来た時に――。その本に、そいつの肖像画が載ってたじゃないか」
 いかにも、この少年の言いそうなことである。
 そして、子供じみていて、結構、可愛い。
「ああ、そういえば、そういうこともありましたねぇ……。あの頃は、舜くんもまだ小さくて、楽をすることばかりを考えて――」
「昔話を聞きたいんじゃないんだ!」
 何しろ、話が長くなる上に、厭味だけしか、出て来ない。
「覚えてるんだろ?」
「ええ。ポーランドの伝説でしたか」
「ポーランドって、この国の隣だろ? すぐそこだろ?」
 随分、グローバルな解釈である。
「んー……。すぐそこ、という訳では……」
「でも、隣だろ?」
「ええ、まあ、国家単位で言うなら……」
「じゃあ、その魔術師の名前を教えてくれよ。それが知りたいんだ」
 舜は、いつになく真摯な眼差しで、詰め寄った。
 黄帝の眼差しが、誰もが魂を売り渡してしまうような美しさで、舜を見つめる。
「何故、私に訊く必要があるのですか、舜くん? 君は、よく知っているはずですよ」
「……」
 やっぱり、と舜は、心の中で、呟いた。
「あの……もう寝てもいいでしょうか、舜くん?」
「ああ。ずっと起きなくたっていい」
 根本的には、変わらない少年である。
 舜はそう言って、さっさと黄帝の部屋を、飛び出して行った。
 そして、どうするのか、といえば――。
「これで、ぐっすり眠れる」
 寝るのである。
 やはり、この二人、間違いなく親子であろう……。




「……ぼくは、もう嫌だ」
 イリアは、頑なに首を振った。
「駄目よ、イリア。そんなことは許さないわ」
「でも――」
「もう二度と、あんなことはしないでちょうだい。彼を城から追い出そうなんて……。解るでしょう、イリア? 私たちの偉大なる祖は、いつも月から見ていらっしゃるのよ。月の影は、あの方の影……。私たちは、滅びる訳にはいかないのよ」
「……」
「狼たちは、月にいらっしゃる偉大なる御方を呼んで、吠えるわ。月に、あの方の姿が浮かび上がる度に、いにしえの強き力を求めて――。皆、その時を望んでいるのよ。私たちも……。そうでしょう、イリア?」
「ぼくは……」
「愛しているわ、イリア……。私たちは双子ですもの。何だって解り合える」
 リジアの唇がそっと近づき、イリアの唇を、柔らかく、塞いだ。
 指先が頬を包み込み、首筋から胸へと、伝い落ちる。
 ガウンの落ちる音さえ幻想的に、白い肌が露になった。
「姉さま……」
 イリアは抵抗しなかった。
 体の反応のままに、身を捩る。
 舌が絡まり、吸い上げられる度に、堪えようのない熱が、そこに、集まる。
「もうすぐよ、イリア……。明日は満月ですもの……」



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