128 / 533
五夜 木乃伊(ミイラ)の洞窟(ペチェル)
五夜 木乃伊の洞窟 21
しおりを挟む「力が失くなれば、力が欲しくなるのは、当然だよなぁ……」
たとえ、血統は損なわれようと、黄帝や舜のように、桁外れの力を持つ者の血を混ぜて。
舜の一族の場合、多種族の血が混じっているために、系図は限りなくややこしく、母親も系図を溯れば、黄帝の血を引いている子孫であるというのだから、どこでどうなっているのか、判らない。
舜にとって、黄帝は父親でもあり、母方から見れば、遠い先祖にも当たるのだ。
そして、色々な血が混じっているために、一族の体質も安定せず、昼間も歩ける者や、普通の食事で過ごせる者、弱い力しか持たない者、舜や黄帝のように、より古(いにしえ)の姿に近い、凄まじい力を持つ者……と、その種類も千差万別である。
「でも、イリアは、力なんていらないみたいだったよな……」
あの時、イリアは、そう言ったのだ。
『ぼくたちは、ずっとこのままでいいんだ』
と――。
ぼくたち――その言い方は、おかしくはないだろうか。
普通、舜とリジアの婚姻で得られるのは、力の強い子供であり、彼ら自身が強い力を持てる訳ではない。
本来なら、ぼくたちの一族は、というべきではないのだろうか。
まあ、あの時のイリアは、かなり興奮していて、言葉になど気を遣っていられなかったのかも、知れないが。
だが、だからこそ、うっかりと、その言葉を口に出してしまったのだ、とはいえないか。
興奮していたからこそ、言葉を選ぶ余裕もなく、その〃おかしい言葉〃が口から出てしまったのだと。
「うーん、オレ、やっぱりちゃんと、人の話を聞いてるじゃないか」
舜は一人、悦に入っている。
やはり、人格が知れない、この少年。
その絵は、暖炉の上に、一際古い色で、飾られていた。
舜は、その絵をじっと、見ていた。
そして、漆黒の瞳を、見開いた。
「オレ……こいつ、知ってる」
「おいっ、起きろよ、黄帝――じゃなく、お父様! 訊きたいことがあるんだよ!」
「ん……」
「起きろったら! 起きてください、お父様!」
舜は、黄帝の部屋に入るなり、ベッドに眠る黄帝を、ゆっさゆっさと揺さぶり起こした。
この少年、人の迷惑、というものを考えないのである。特に、父親の迷惑は。
「んー……」
「んー、じゃないったらっ。子供の話は、ちゃんと聞いてくれるんだろ!」
親子の縁を切りたいほど嫌っていても、こういう時は、その青年の息子でも、構わないらしい。
「ん……。あのですね、舜くん……。私は、もちろん、君の話を聞きますし……相談にも乗りますが……何分、年ですから、もう少し気を遣って……」
「オレ――ぼく、ちゃんと見て気づいたんだっ。この城の人間――特に、トファルドフスキ氏のことを、どこかで見たことがある――誰かに似てるって――。それで、その誰かも見つけたんだけど、そいつのことが思い出せないんだよっ」
「うーん……。それは、君の普段の集中力が不足しているからで、今度からは、ちゃんと集中して勉強をする習慣を身につけておいた方がいいと思いますよ、私は――」
「身につけるから、今、教えてくれよっ」
珍しく、熱心である。
まあ、自分が『生贄』にされるかも知れない、となっては、熱心になる外ないのだろうが。
もちろん、ここで、生贄にされるかも知れないから助けてください、などとは、その青年に、言ったりしない。そんなことを黄帝に言うくらいなら、生贄にされてしまった方が、マシである。
何より、その青年、息子を心配して助けてくれるような父親ではないのだ。舜が生贄にされるかも知れない、と聞けば、自ら進んで祭壇を用意し、血を受ける杯を用意してしまうような、血も涙もない父親なのである。
あふ、と大きな欠伸をし、黄帝が、やっと、ベッドの上に、身を起こした。
吸血鬼の眠りは浅く、熟睡している時でもない限り、人の気配を聞き付けて、パッ、と目を醒ますはずなのだが……この青年に限っては、どう解釈をすればいいのか、判らない。
まあ、強いて言うなら、あまりに長く生き過ぎたために、パッ、と目醒めなくてはならないほど、危険なものが、彼にはもう無いのだ、ということになるだろうか。
「寝入りばなに起こされるのは、年寄りには堪えますねぇ……」
などと、玲瓏な面貌を、歪めている。
「教えてくれたら、寝てもいいから」
当然である。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。
プラス的 異世界の過ごし方
seo
ファンタジー
日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。
呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。
乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。
#不定期更新 #物語の進み具合のんびり
#カクヨムさんでも掲載しています
陛下を捨てた理由
甘糖むい
恋愛
侯爵家の令嬢ジェニエル・フィンガルドには、幼い頃から仲の良い婚約者がいた。数多くの候補者の中でも、ジェニエルは頭一つ抜きんでており、王家に忠実な家臣を父に持つ彼女にとって、セオドール第一王子との結婚は約束されたも同然だった。
年齢差がわずか1歳のジェニエルとセオドールは、幼少期には兄妹のように遊び、成長するにつれて周囲の貴族たちが噂するほどの仲睦まじい関係を築いていた。ジェニエルは自分が王妃になることを信じて疑わなかった。
16歳になると、セオドールは本格的な剣術や戦に赴くようになり、頻繁に会っていた日々は次第に減少し、月に一度会うことができれば幸運という状況になった。ジェニエルは彼のためにハンカチに刺繍をしたり、王妃教育に励んだりと、忙しい日々を送るようになった。いつの間にか、お互いに心から笑い合うこともなくなり、それを悲しむよりも、国の未来について真剣に話し合うようになった。
ジェニエルの努力は実り、20歳でついにセオドールと結婚した。彼女は国で一番の美貌を持ち、才知にも優れ、王妃としての役割を果たすべく尽力した。パーティーでは同性の令嬢たちに憧れられ、異性には称賛される存在となった。
そんな決められた式を終えて3年。
国のよき母であり続けようとしていたジェニエルに一つの噂が立ち始める。
――お世継ぎが生まれないのはジェニエル様に問題があるらしい。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です
しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。
聖女の妹は無能ですが、幸せなので今更代われと言われても困ります!
ユウ
ファンタジー
侯爵令嬢のサーシャは平凡な令嬢だった。
姉は国一番の美女で、才色兼備で聖女と謡われる存在。
対する妹のサーシャは姉とは月スッポンだった。
能力も乏しく、学問の才能もない無能。
侯爵家の出来損ないで社交界でも馬鹿にされ憐れみの視線を向けられ完璧を望む姉にも叱られる日々だった。
人は皆何の才能もない哀れな令嬢と言われるのだが、領地で自由に育ち優しい婚約者とも仲睦まじく過ごしていた。
姉や他人が勝手に憐れんでいるだけでサーシャは実に自由だった。
そんな折姉のジャネットがサーシャを妬むようになり、聖女を変われと言い出すのだが――。
神様のミスで女に転生したようです
結城はる
ファンタジー
34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。
いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。
目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。
美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい
死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。
気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。
ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。
え……。
神様、私女になってるんですけどーーーー!!!
小説家になろうでも掲載しています。
URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる