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五夜 木乃伊(ミイラ)の洞窟(ペチェル)
五夜 木乃伊の洞窟 19
しおりを挟む「まさか、君が……」
トファルドフスキが、白い髭を揺らして、口を開いた。
もちろん、デューイがいくら鈍感とはいえ、その言葉と視線がどういう意味を持つものなのかは、すでに理解できていた。
「あの――」
「何ということをしてくれたんだ、君は! いくら、黄帝殿の客人とはいえ、私の可愛い孫を――。しかも、こんな小さい子供を、無理やり……。これだからアメリカ人は!」
トファルドフスキが、怒りに顔を真っ赤にして、部屋の中へと入り込んだ。
言い訳をしなくてはならないことは判っていたが、デューイは、そのトファルドフスキの勢いに押され、ただうろたえることしか出来なかった。
そこへ――。
「おい、じいさん」
と、お世辞にも、いい言葉遣いとはいえない言葉が、紛れ込んだ。
トファルドフスキが、その言葉を聞いて、振り返る。
舜が部屋へと、姿を見せた。
「怒るのなら、もっとよく見て、よく聞いてからにしろよ」
おや、どこかで聞いたような台詞である。
「そいつはな、確かに男とやる方が好きな変態だけど、こんな子供を無理やり犯すような真似をする奴じゃないぜ」
何か、嬉しいような、迷惑のような――付け加えるなら、もっと言葉を選んでほしい、弁護である。
しかし、デューイには、心が蕩けるほどに、嬉しいものであった。
舜が信用してくれている、というだけで、充分、満足だったのだ。もちろん、もう少し言葉に気を遣ってもらいたかったような気もするが、信用されないより、マシである。
だが――。
だが――。
「トファルドフスキ氏に謝りなさい、舜くん」
黄帝が言った。
ただ静かな口調である。
「だけど――っ」
「謝りなさい。三度は言いません」
「……」
ただ淡々とした黄帝の言葉に、舜は、キュっ、と唇を噛み締めた。
廊下では、イリアが、不思議そうに黄帝を、見上げている。
デューイは、眉を落として、ただその場に項垂れていた。
黄帝に疑われるくらいなら、死んでしまった方が、マシである。
だが――。
「オレは、間違ってない……。それは、あんたにも判ってるはずだっ。どう見たって、デューイより、そのガキの方が力が強いじゃないか! デューイに無理やりどうにか出来る相手じゃないんだ。その力の違いは、デューイにだって判ってるはずだ。それなのに、そんなことをするはずが――」
「いつも言っているはずです、舜くん。デューイさんを弁護したいのなら、正しい言葉で弁護なさい。君の言うことは、確かに間違ってはいないのですから」
「え……」
「そんな言い方では、トファルドフスキ氏も理解などしてはくれませんよ」
いつも正しく、冷静なのだ、この青年は。
舜は、トファルドフスキの方を、振り返った。
「すみませんでした、ガスパジン.トファルドフスキ……」
と、素直に謝り、
「デューイは――彼は、そんなことをする人間ではありません……。確かに、女より男の方が好きな変態だけど……」
この辺りは、変わっていないらしい。
「無理やり犯すようなことは、絶対にしない」
デューイが何かをしでかしたら、それは全て、デューイの面倒をみる立場にある舜の責任になってしまうのである。それを知りながら、デューイが問題を起こすようなことを、するはずが、ない。
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