上 下
126 / 533
五夜 木乃伊(ミイラ)の洞窟(ペチェル)

五夜 木乃伊の洞窟 19

しおりを挟む



「まさか、君が……」
 トファルドフスキが、白い髭を揺らして、口を開いた。
 もちろん、デューイがいくら鈍感とはいえ、その言葉と視線がどういう意味を持つものなのかは、すでに理解できていた。
「あの――」
「何ということをしてくれたんだ、君は! いくら、黄帝殿の客人とはいえ、私の可愛い孫を――。しかも、こんな小さい子供を、無理やり……。これだからアメリカ人は!」
 トファルドフスキが、怒りに顔を真っ赤にして、部屋の中へと入り込んだ。
 言い訳をしなくてはならないことは判っていたが、デューイは、そのトファルドフスキの勢いに押され、ただうろたえることしか出来なかった。
 そこへ――。
「おい、じいさん」
 と、お世辞にも、いい言葉遣いとはいえない言葉が、紛れ込んだ。
 トファルドフスキが、その言葉を聞いて、振り返る。
 舜が部屋へと、姿を見せた。
「怒るのなら、もっとよく見て、よく聞いてからにしろよ」
 おや、どこかで聞いたような台詞である。
「そいつはな、確かに男とやる方が好きな変態だけど、こんな子供を無理やり犯すような真似をする奴じゃないぜ」
 何か、嬉しいような、迷惑のような――付け加えるなら、もっと言葉を選んでほしい、弁護である。
 しかし、デューイには、心が蕩けるほどに、嬉しいものであった。
 舜が信用してくれている、というだけで、充分、満足だったのだ。もちろん、もう少し言葉に気を遣ってもらいたかったような気もするが、信用されないより、マシである。
 だが――。



 だが――。
「トファルドフスキ氏に謝りなさい、舜くん」
 黄帝が言った。
 ただ静かな口調である。
「だけど――っ」
「謝りなさい。三度は言いません」
「……」
 ただ淡々とした黄帝の言葉に、舜は、キュっ、と唇を噛み締めた。
 廊下では、イリアが、不思議そうに黄帝を、見上げている。
 デューイは、眉を落として、ただその場に項垂れていた。
 黄帝に疑われるくらいなら、死んでしまった方が、マシである。
 だが――。
「オレは、間違ってない……。それは、あんたにも判ってるはずだっ。どう見たって、デューイより、そのガキの方が力が強いじゃないか! デューイに無理やりどうにか出来る相手じゃないんだ。その力の違いは、デューイにだって判ってるはずだ。それなのに、そんなことをするはずが――」
「いつも言っているはずです、舜くん。デューイさんを弁護したいのなら、正しい言葉で弁護なさい。君の言うことは、確かに間違ってはいないのですから」
「え……」
「そんな言い方では、トファルドフスキ氏も理解などしてはくれませんよ」
 いつも正しく、冷静なのだ、この青年は。
 舜は、トファルドフスキの方を、振り返った。
「すみませんでした、ガスパジン.トファルドフスキ……」
 と、素直に謝り、
「デューイは――彼は、そんなことをする人間ではありません……。確かに、女より男の方が好きな変態だけど……」
 この辺りは、変わっていないらしい。
「無理やり犯すようなことは、絶対にしない」
 デューイが何かをしでかしたら、それは全て、デューイの面倒をみる立場にある舜の責任になってしまうのである。それを知りながら、デューイが問題を起こすようなことを、するはずが、ない。



しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

妹はわたくしの物を何でも欲しがる。何でも、わたくしの全てを……そうして妹の元に残るモノはさて、なんでしょう?

ラララキヲ
ファンタジー
 姉と下に2歳離れた妹が居る侯爵家。  両親は可愛く生まれた妹だけを愛し、可愛い妹の為に何でもした。  妹が嫌がることを排除し、妹の好きなものだけを周りに置いた。  その為に『お城のような別邸』を作り、妹はその中でお姫様となった。  姉はそのお城には入れない。  本邸で使用人たちに育てられた姉は『次期侯爵家当主』として恥ずかしくないように育った。  しかしそれをお城の窓から妹は見ていて不満を抱く。  妹は騒いだ。 「お姉さまズルい!!」  そう言って姉の着ていたドレスや宝石を奪う。  しかし…………  末娘のお願いがこのままでは叶えられないと気付いた母親はやっと重い腰を上げた。愛する末娘の為に母親は無い頭を振り絞って素晴らしい方法を見つけた。  それは『悪魔召喚』  悪魔に願い、  妹は『姉の全てを手に入れる』……── ※作中は[姉視点]です。 ※一話が短くブツブツ進みます ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げました。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

西遊記龍華伝

百はな
歴史・時代
ー少年は猿の王としてこの地に君臨したー 中国唐時代、花果山にある大きな岩から産まれた少年は猿の王として悪い事をしながら日々を過ごしていた。 牛魔王に兄弟子や須菩提祖師を殺されその罪を被せられ500年間、封印されてしまう。 500年後の春、孫悟空は1人の男と出会い旅に出る事になるが? 心を閉ざした孫悟空が旅をして心を繋ぐ物語 そしてこの物語は彼が[斉天大聖孫悟空]と呼ばれるまでの物語である。

約束の子

月夜野 すみれ
ファンタジー
幼い頃から特別扱いをされていた神官の少年カイル。 カイルが上級神官になったとき、神の化身と言われていた少女ミラが上級神官として同じ神殿にやってきた。 真面目な性格のカイルとわがままなミラは反発しあう。 しかしミラとカイルは「約束の子」、「破壊神の使い」などと呼ばれ命を狙われていたと知る事になる。 攻撃魔法が一切使えないカイルと強力な魔法が使える代わりにバリエーションが少ないミラが「約束の子」/「破壊神の使い」が施行するとされる「契約」を阻む事になる。 カタカナの名前が沢山出てきますが主人公二人の名前以外は覚えなくていいです(特に人名は途中で入れ替わったりしますので)。 名無しだと混乱するから名前が付いてるだけで1度しか出てこない名前も多いので覚える必要はありません。 カクヨム、小説家になろう、ノベマにも同じものを投稿しています。

転生先の異世界で温泉ブームを巻き起こせ!

カエデネコ
ファンタジー
日本のとある旅館の跡継ぎ娘として育てられた前世を活かして転生先でも作りたい最高の温泉地! 恋に仕事に事件に忙しい! カクヨムの方でも「カエデネコ」でメイン活動してます。カクヨムの方が更新が早いです。よろしければそちらもお願いしますm(_ _)m

処理中です...