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五夜 木乃伊(ミイラ)の洞窟(ペチェル)
五夜 木乃伊の洞窟 4
しおりを挟むそんな訳で、飛行機は無事モスクワに着き、三人は、それからさらに空路、キエフへと向かった。
黄帝はデューイを気遣って、列車でキエフに入ってもいい、と言ったのだが、デューイは黄帝にそんな迷惑をかけることなど出来ず――何しろ、空路なら市内までの交通も含めて二時間のところ、列車では寝台特急で十一時間四〇分もかかってしまうのだから――覚悟を決めて、また飛行機に乗ることにした訳である。
そして、三人は今、めでたく目的の都、キエフに着いていた。
ここは、一九九一年末に連邦から独立したウクライナの首都であり、ロシアの歴史の発祥地たる古都、でもある。
北国ロシアのイメージが覆されてしまうほどの緑に溢れた、陽光のリゾート地――ではあるが、今の季節、やはり、まだ中国よりも、寒い。
だが、三人の旅は、そこが終点では、なかった。
「ようこそおいでくださいました、黄帝様。トファルドフスキの命令により、お迎えに上がりました。――どうぞ、こちらへ」
という訳で、三人はさらにクラシックな車に乗り、緑美しい――どころか、鬱蒼とした草木の茂る、薄暗い森の奥深くに、連れて行かれた訳である……。
もちろん、舜にも、黄帝にも、デューイにも、明るい街中より、こうした薄暗い場所の方が落ち着けるのだが。
車が止まった場所には、城が、あった。
「うわあ、本当に城だぁ」
と、舜は、どっしりと聳え立つ石造りの城に、感激などしている。
長い旅の疲れも見せていないのだから、大したものである。
「な……なんか、幽霊でも出そうな――い、いえ、その、由緒がありそうな、立派なお城で……」
は、デューイである。
カリフォルニアで生まれ、一年前までは普通のカメラマン志望の青年であっただけに、こういう場所には慣れていないのだ。
まあ、カリフォルニア、といっても、霧の多い、ジメジメとしたサンフランシスコの生まれなのだが。
「どうぞ、こちらへ」
三人は、迎えに来た男の言葉のままに、その重々しい城の扉を、くぐった。
中も、期待を裏切ることのない荘厳な造りで、壁にかかるタペストリーや、戦の模様を切り取った絵画、肖像画……全てが、時代を偲ばせる造りとなっている。
早く言えば、古く、薄暗く、カビ臭い、ということになるだろうか。
舜の胸は、もう期待と歓びで、一杯であった。
何しろ今回は、黄帝が絡む話ではなく、歴とした招待主がいて、その招待主が、舜と自分の孫を逢わせたい、というのだから、今までのように酷い目に遭うこともないと思うから、その歓びも一入である。
まあ、デューイの方は、多少、複雑な思いであったかも知れないが。
実はこの青年、舜の見合いを決して喜んではいないのである。それというのも――いや、その話は後にしよう。城の主が姿を見せたようである。
「ようこそ、黄帝殿。このような遠方まで足を運ばせてしまって、申し訳ございませぬ。何しろ、私もこの年で」
見事な白髪と白髭を蓄える威厳高い老人が、三人の前へと姿を見せた。見るからに老人ではあるが、決して、弱々しい、という印象は与えない。その足取りも、しっかりとしたものである。
「いえいえ、まだお若いですよ」
と、黄帝も言った。
この青年でも、お世辞を言うことがある、とは驚きである。
「そうでしたな。あなた様に比べれば、私など、長く生きた者の内にも入りますまい」
老人は、言った。
なら、黄帝は、その老人よりも、さらに長き時間を生きている、というのだろうか。そして、さっきの黄帝の言葉も、お世辞ではなく、真実であったのだと。
得体の知れない青年、である。
デューイなど、もう訳も分からない様子で、ぽかん、と口を開いている。
舜は、といえば、城に入った時から、ずっと、そわそわとしていたりする。
理由は――言うまでもあるまい。
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