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四夜 燭陰(しょくいん)の玉(ぎょく)
四夜 燭陰の玉 16
しおりを挟む「……っ。気の合う土に護られていても、全ての光は遮れぬか」
肌を焼く激しい光の痛みに、炎帝が苦々しい面で吐き捨てた。
傍らの黄帝の額にも、うっすらと汗が滲んでいる。
彼らが汗をかいているのだ。今まで一度も見せたことのない、無縁のものを。
「来るぞ」
黄帝が言った。
しかし、一体、何が――。
目映いばかりの光の中、その姿は、見て取れない。
「囲まれたか」
見えていなくても判る、というのだろうか、その二人には。
「我々は、ラ・ムーを頂点に、七つの都市を護る守護者――。出て行くがいい、畏れを知らぬ者たちよ。そなたらが《燭陰の玉》と呼ぶ#太陽__ラ__#の輝きは、夜を翔る魔物にはそぐわぬ」
七人の守護者の内の、一人が言った。
太陽を――天帝を信仰している彼らには、この光も害となることはないのだろう。
なら、勝てるというのか、その二人は。
光の中、相手の姿も見ることが出来ない、というのに。
「生憎、我々は、満腹の犬ばかりを相手にして来た訳ではない。飢えた狂犬をも、飼い慣らして来たのだ――!」
炎帝が言い放つや否や、ゴオオオオ――っと凄まじい炎がうねりを上げた。
それは、七本の火柱となり、見えぬ守護者たちに、襲い掛かった。
気配が七つ、飛翔する。
「そこか!」
再び、炎のうねりが守護者を襲った。
刹那、ガラス片にも似た無数の光が、鋭い切っ先を持って、二人――黄帝と炎帝の元へと襲い来た。
サラ、と無数の砂が、音を立てる。
キーン、とそこかしこで、美しい音が、きらめいた。
砂と光の結晶が生み出す、破砕音である。
あれだけの数の光の刃を、わずか一瞬の内に全て見極め、黄帝は砂を用いて砕いたのだ。
しかし、守護者たちは怯む様子もなく、光の結晶を撒き散らしている。
「く……っ」
黄帝が、足を折るようにして、呻きを上げた。
鋭い切っ先を持つ光の結晶が、その足を貫き通したのだ。
砂の防御が、刹那、弱まる。
先に負った火傷もあって、彼は、見た目以上にダメージを受けているのかも、知れない。
ゴオオオオ――っと炎が輪を作って、光の空間に、広がった。
防御仕切れない光の刃が、二人の体を、幾つも貫く。
「くっ!」
炎帝も、その光を喰らって、膝を折った。
瞬時に数箇所、結晶と化した聖なる光が、闇に棲まう者の体を、容赦なく穿つ。
鮮血が飛び、二人の体は、瞬く間に赤く染まった。
「愚かな魔物よ。そなたらには、#太陽__ラ__#はそぐわぬ、と言ったはずだ」
光源の中から、再び守護者たちの声が、響き渡った。
「そぐわぬなら……尚更、手に入れなくてはなるまい。我らの血は、おとなしくはない!」
カッ、と赤光を放つ双眸が、閃いた。
血の色に染まる、赤眼である。
黄帝の双眸も、同じであった。
唇には、鋭い乱杭歯が、突き出している。
血が――。
彼らの血が、そうさせるのだ。
『夜の一族』たる、哀しい血が。
そして、その彼らの姿は、戦慄を覚えるほどの美しさであった。
光の中、血の流れさえも止まらぬまま、赤き双眸が、獲物を捕らえる。
炎が、天翔る龍の如く、うねりを上げた。
舞い上がった砂塵が、光の発する熱を奪い、極度に冷えきった大気の中、鋭い輝きを持つ氷刃を作る。
火龍と氷刃が、守護者を襲った。
炎が肌を焼き、氷の刃が肉を貫く。
「ぐうっ!」
外側から焼け、内側から凍りつく恐ろしい力に、守護者の一人が、呻きを上げた。
「そこか!」
声を上げた守護者の元へ、再び火龍と氷刃が空を剱った。
「ぐあっ!」
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