上 下
105 / 533
四夜 燭陰(しょくいん)の玉(ぎょく)

四夜 燭陰の玉 16

しおりを挟む


「……っ。に護られていても、全ての光は遮れぬか」
 肌を焼く激しい光の痛みに、炎帝が苦々しい面で吐き捨てた。
 傍らの黄帝の額にも、うっすらと汗が滲んでいる。
 彼らが汗をかいているのだ。今まで一度も見せたことのない、無縁のものを。
「来るぞ」
 黄帝が言った。
 しかし、一体、何が――。
 目映いばかりの光の中、その姿は、見て取れない。
「囲まれたか」
 見えていなくても判る、というのだろうか、その二人には。
「我々は、ラ・ムーを頂点に、七つの都市を護る守護者――。出て行くがいい、畏れを知らぬ者たちよ。そなたらが《燭陰の玉》と呼ぶ#太陽__ラ__#の輝きは、夜を翔る魔物にはそぐわぬ」
 七人の守護者の内の、一人が言った。
 太陽を――天帝を信仰している彼らには、この光も害となることはないのだろう。
 なら、勝てるというのか、その二人は。
 光の中、相手の姿も見ることが出来ない、というのに。
「生憎、我々は、満腹の犬ばかりを相手にして来た訳ではない。飢えた狂犬をも、飼い慣らして来たのだ――!」
 炎帝が言い放つや否や、ゴオオオオ――っと凄まじい炎がうねりを上げた。
 それは、七本の火柱となり、見えぬ守護者たちに、襲い掛かった。
 気配が七つ、飛翔する。
「そこか!」
 再び、炎のうねりが守護者を襲った。
 刹那、ガラス片にも似た無数の光が、鋭い切っ先を持って、二人――黄帝と炎帝の元へと襲い来た。
 サラ、と無数の砂が、音を立てる。
 キーン、とそこかしこで、美しい音が、きらめいた。
 砂と光の結晶が生み出す、破砕音である。
 あれだけの数の光の刃を、わずか一瞬の内に全て見極め、黄帝は砂を用いて砕いたのだ。
 しかし、守護者たちは怯む様子もなく、光の結晶を撒き散らしている。
「く……っ」
 黄帝が、足を折るようにして、呻きを上げた。
 鋭い切っ先を持つ光の結晶が、その足を貫き通したのだ。
 砂の防御が、刹那、弱まる。
 先に負った火傷もあって、彼は、見た目以上にダメージを受けているのかも、知れない。
 ゴオオオオ――っと炎が輪を作って、光の空間に、広がった。
 防御仕切れない光の刃が、二人の体を、幾つも貫く。
「くっ!」
 炎帝も、その光を喰らって、膝を折った。
 瞬時に数箇所、結晶と化した聖なる光が、闇に棲まう者の体を、容赦なく穿つ。
 鮮血が飛び、二人の体は、瞬く間に赤く染まった。
「愚かな魔物よ。そなたらには、#太陽__ラ__#はそぐわぬ、と言ったはずだ」
 光源の中から、再び守護者たちの声が、響き渡った。
「そぐわぬなら……尚更、手に入れなくてはなるまい。我らの血は、おとなしくはない!」
 カッ、と赤光を放つ双眸が、閃いた。
 血の色に染まる、赤眼である。
 黄帝の双眸も、同じであった。
 唇には、鋭い乱杭歯が、突き出している。
 血が――。
 彼らの血が、そうさせるのだ。
『夜の一族』たる、哀しい血が。
 そして、その彼らの姿は、戦慄を覚えるほどの美しさであった。
 光の中、血の流れさえも止まらぬまま、赤き双眸が、獲物を捕らえる。
 炎が、天翔る龍の如く、うねりを上げた。
 舞い上がった砂塵が、光の発する熱を奪い、極度に冷えきった大気の中、鋭い輝きを持つ氷刃ひょうじんを作る。
 火龍と氷刃が、守護者を襲った。
 炎が肌を焼き、氷の刃が肉を貫く。
「ぐうっ!」
 外側から焼け、内側から凍りつく恐ろしい力に、守護者の一人が、呻きを上げた。
「そこか!」
 声を上げた守護者の元へ、再び火龍と氷刃が空を剱った。
「ぐあっ!」



しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

【二章完結】ヒロインなんかじゃいられない!!男爵令嬢アンジェリカの婿取り事情

ayame
ファンタジー
気がつけば乙女ゲームとやらに転生していた前世アラサーの私。しかもポジションはピンクの髪のおバカなヒロイン。……あの、乙女ゲームが好きだったのは私じゃなく、妹なんですけど。ゴリ押ししてくる妹から話半分に聞いていただけで私は門外漢なんだってば! え?王子?攻略対象?? 困ります、だって私、貧乏男爵家を継がなきゃならない立場ですから。嫁になんか行ってられません、欲しいのは従順な婿様です! それにしてもこの領地、特産品が何もないな。ここはひとつ、NGO職員として途上国支援をしてきた前世の知識を生かして、王国一の繁栄を築いてやろうじゃないの! 男爵家に引き取られたヒロインポジの元アラサー女が、恋より領地経営に情熱を注ぐお話。(…恋もたぶんある、かな?) ※現在10歳※攻略対象は中盤まで出番なし※領地経営メイン※コメ返は気まぐれになりますがそれでもよろしければぜひ。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

チャラ孫子―もし孫武さんがちょっとだけチャラ男だったら―

神光寺かをり
歴史・時代
チャラいインテリか。 陽キャのミリオタか。 中国・春秋時代。 歴史にその名を遺す偉大な兵法家・孫子こと孫武さんが、自らの兵法を軽ーくレクチャー! 風林火山って結局なんなの? 呉越同舟ってどういう意味? ちょっとだけ……ほんのちょっとだけ「チャラ男」な孫武さんによる、 軽薄な現代語訳「孫子の兵法」です。 ※直訳ではなく、意訳な雰囲気でお送りいたしております。 ※この作品は、ノベルデイズ、pixiv小説で公開中の同名作に、修正加筆を施した物です。 ※この作品は、ノベルアップ+、小説家になろうでも公開しています。

水しか操れない無能と言われて虐げられてきた令嬢に転生していたようです。ところで皆さん。人体の殆どが水分から出来ているって知ってました?

ラララキヲ
ファンタジー
 わたくしは出来損ない。  誰もが5属性の魔力を持って生まれてくるこの世界で、水の魔力だけしか持っていなかった欠陥品。  それでも、そんなわたくしでも侯爵家の血と伯爵家の血を引いている『血だけは価値のある女』。  水の魔力しかないわたくしは皆から無能と呼ばれた。平民さえもわたくしの事を馬鹿にする。  そんなわたくしでも期待されている事がある。  それは『子を生むこと』。  血は良いのだから次はまともな者が生まれてくるだろう、と期待されている。わたくしにはそれしか価値がないから……  政略結婚で決められた婚約者。  そんな婚約者と親しくする御令嬢。二人が愛し合っているのならわたくしはむしろ邪魔だと思い、わたくしは父に相談した。  婚約者の為にもわたくしが身を引くべきではないかと……  しかし……──  そんなわたくしはある日突然……本当に突然、前世の記憶を思い出した。  前世の記憶、前世の知識……  わたくしの頭は霧が晴れたかのように世界が突然広がった……  水魔法しか使えない出来損ない……  でも水は使える……  水……水分……液体…………  あら? なんだかなんでもできる気がするわ……?  そしてわたくしは、前世の雑な知識でわたくしを虐げた人たちに仕返しを始める……──   【※女性蔑視な発言が多々出てきますので嫌な方は注意して下さい】 【※知識の無い者がフワッとした知識で書いてますので『これは違う!』が許せない人は読まない方が良いです】 【※ファンタジーに現実を引き合いに出してあれこれ考えてしまう人にも合わないと思います】 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い異世界転生。何も成し遂げることなく35年……、ついに前世の年齢を超えた。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚

浦出卓郎
ファンタジー
戦後―― 人種根絶を目指した独裁政党スワスティカが崩壊、三つの国へと分かれた。 オルランド公国、ヒルデガルト共和国、カザック自治領。 ある者は敗戦で苦汁をなめ、ある者は戦勝気分で沸き立つ世間を、綺譚蒐集者《アンソロジスト》ルナ・ペルッツは、メイド兼従者兼馭者の吸血鬼ズデンカと時代遅れの馬車に乗って今日も征く。 綺譚―― 面白い話、奇妙な話を彼女に提供した者は願いが一つ叶う、という噂があった。 カクヨム、なろうでも連載中!

処理中です...