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四夜 燭陰(しょくいん)の玉(ぎょく)

四夜 燭陰の玉 11

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 海の底から盛り上がった島は、黒灰色の岩石で覆われ、今も煙を噴き出していた。
「……ここにも《燭陰の玉》はないか」
 その島を、自らの炎で調べ終え、炎帝は、なくても一向に困らないように、ぽつり、と言った。
 あの美しい青年にしても、この麗人にしても、よく解らない性格の持ち主なのである。
 本当に望むものが何であるのか、一向に、知れない。――いや、彼らに望むものなど、あるのだろうか。
「あ、あの、私、嘘をついた訳では……」
 不思議な動力で動く船の上で、娘は身を震わせながら、脅えて言った。
 呪術師の村から、連れて来られた娘の一人、である。
 彼女の呪力で遠視した場所の、海底火山を噴火させたものの、さっきの炎帝の言葉の通り、そこには玉の破片かけら一つ、見つからなかったのだ。
「失せ物を探す程度の力など、もとより、当てにはしておらぬ。黄帝の妻の容体が回復するまでの戯事ざれごとだ」
 炎帝は言った。
「そ、それでは、私は――」
「黄帝ならば、島に置き去りにして来ただろうな」
 その言葉に、娘の面は蒼白になった。
 いつ火を噴くかも解らない島なのだ。
「勘違いしているようだが、私は黄帝よりも、遥かに優しく、甘い人間だ。――いや、人の子は我らを魔物と呼ぶか。――何しろ、私は、『夜の一族』が不自由なく暮らせる世界があればいい、などという夢を見ているくらいだからな」
「……あの?」
「黄帝は夢など見ぬ。私は、その彼奴の厳しさを愛したのだ」
 自分にも他人にも厳しい、その魔物を――。
 厳しく生きようとする者の姿は、見ていて胸が苦しくなるほどに、切なく、愛しい。
 そんな生き方をする人間を見た者は、もうその人物を手放せなくなってしまうことだろう。
 常に、その者が戦う姿を見ていたくなり、死に逝く様さえ、見たくなる。
「女は男に夢など見せぬ。男の見る夢は、いつも、己の力だ。だからこそ、男は戦う。――まあ、その戦いも、じきに終わりを迎え、どちらが生き残っても、戦う相手を失い、くだらない生き物になってしまうのだろうが」
 ひょっとして彼は、本当に優しい人間ではないのだろうか――そう思えるような呟き、であった。
 もちろん、呪術師の村を襲わせ、娘たち以外――年寄りや赤子まで殺させてしまったのも、その男なのだが。
 本当に、よく解らない人物である。――いや、長きを生きて来た者の心など、たかが人の子に解る方がおかしいのだ。
「あの、炎帝様、私にもう一度やらせてください。今度こそは――」
「同じ戯事は、二度も要らぬ」
「え?」
 ゴオオオオ――っ、と凄まじい炎が、渦を巻いた。
 わずか一瞬の出来事である。
 そして、船の上には、骨まで瞬時に焼き尽くされてしまった、娘の名残の灰が、あった。
 ほんのわずかの灰、である。
 何という恐ろしい力、なのであろうか。
 やはり彼も、魔物、なのだ。
「そなたの妻も、この娘と同じように、私に媚びようとするか、黄帝よ?」



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