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四夜 燭陰(しょくいん)の玉(ぎょく)
四夜 燭陰の玉 8
しおりを挟む「呪力を引き継ぐ娘たちを連れて参りました、炎帝様」
男たちが、娘を降ろして、畏まった。
「ご苦労」
炎帝は言い、
「黄帝がおまえたちに用があるそうだ」
と、反対側に立つ、月の麗人へと、視線を向けた。
「はっ」
男たちが、娘を残して、黄帝の方へと、歩き出す。
わずかに、砂塵が、立ち昇った。
だが、この黒曜石の床の上に、砂など積もっていたであろうか。
否。
洞窟の入り口から流れて来た、砂である。
「……黄帝様?」
男たちの声が、恐怖に震えた。
彼らには、それが何を意味するものであるか、解ったのだ。
とたんに顔を引きつらせ、その場で足を止めている。
「私の妻を連れて来てくれたことに、礼を言おう」
黄帝は言った。
「妻……?」
その言葉に、男たちの面が、堅く凍った。
信じられない言葉を聞いた時のように、滅多にかかない汗を、浮かべている。
赤く熱い川を眼下に見た時でさえ、かいていなかった汗である。
「お、お待ちください、黄帝様! 我々は、ただご命令の通りに――」
「私は炎帝と戦うことになるだろう。その時に、誇りなき一族の者は邪魔だ」
カッ、と黒き双眸が、赤光を放った。
黄色い砂が舞い上がり、男たちの体を包み込む。
「ひっ。待――。お待ちください、黄帝様! 我々は――」
男たちの言葉は、続かなかった。
砂は、男たちの体の外側を覆うだけでなく、口や耳、鼻や目から体内に入り、また、毛穴の一つ一つからも侵入し、総毛立つほどの痛みと苦しみを、男たちに与えた。
「ぐ……う……う……」
砂が造り上げた像のような男たちが、くぐもった呻きを、全身から、洩らす。
そして、見よ。体を包むその黄土が、見る間に赤く色を変え、悍ましい血臭を放ち始めたではないか。
男たちの血を、吸い出しているのだ。
男たちは、動くことも出来ないのか、砂に与えられる苦痛のままに、恐ろしい呻きを上げ続けている。
「相変わらず、人をいたぶり殺すことにかけては、私より上だな、黄帝よ。砂が肉を貫き、血管を破り――その苦痛が、私の肌にも伝わって来るようだ」
じわじわといたぶり殺されて行く男たちを見ながら、炎帝が言った。
冷酷さでは引けを取らない二人であっても、それをどこで出すかの違いがあるのだろう。
杭であっさりと殺されるよりも、死に切れないまま、殺し続けられる方が、酷である。
「寝室を貸してもらう。京仔には休息が必要だ。呪術を扱うだけの力が戻れば、《燭陰の玉》のことを訊くがいい。それまでは、他の娘を使って探させることだ。――京仔に次ぐ呪術師だと自称する娘は、私が殺してしまったがな」
そんな恐ろしい言葉を口にして、黄帝は、娘たちの倒れる一角へと、足を向けた。
「どこまでも冷酷で、冷静な男よ。私に心残りがないよう、《玉》探しの時間をくれる、というなら、私もまた、そなたに心残りがないか、訊いておかなくてはなるまい」
炎帝は言った。
「私の灰は必ず河に流し、二度と目醒めぬようにすること――。それだけだ」
「随分、贅沢な望みではないか」
「互いに長く生き過ぎた。それくらいの贅沢は赦されるだろう」
黄帝はそう言い残して京仔を抱き、奥の寝室へと姿を消した。
「望みは聞き届けてやろうぞ、黄帝よ。私以外に、そなたを倒せる者などいないのだからな、愛しき血族よ……」
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