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Karte.12 性同一性障害の可不可―違和
性同一性障害の可不可―違和 14
しおりを挟む「そ、それは困ったわねぇ」
恋の悩み相談は女同士(?)とばかりに、笙子と《春菜=仁》は真剣に語り合い――をするはずもなく、言葉とは裏腹、笑いをこらえるのも大変な様子の笙子と、
「ね? よく解らない人でしょう?」
と、また春名の噴き零したお茶の後始末をする、仁。
だが、笙子の方は、
「あら、そうかしら? 仁くんくらい可愛ければ、告白されても不思議じゃないと思うけど」
「もしくは、何か下心があるか、だな」
春名は言った。
「ぼくの気を惹いて、クラブに通わせよう、ってことですか?」
常連客が増えれば売り上げも増えるし、圭吾の給料も上がるかも知れない。チープな手だが。
「そんな可愛い理由なら構わないんだが」
「そんなわけないですよね」
「高額な紹介料で海外での性別適合手術を斡旋した方が、雑居ビルのクラブ店員より儲かるだろうな」
二人が、連絡の取れなくなった美野里のことを匂わせながら話していると、
「でも、未成年の仁くんにそんなお金があるように見えるかしら?」
と、疑わし気な笙子の言葉。
「『Xセオリー』では天涯孤独で自活してる、って言いましたよ」
「ああ、そりゃ狙われるわね」
そう言いながらも、
「でも、それならわけが解らない人じゃないじゃない」
と、最初に戻って、不満げに言う。
「そうですか? クラブに初めて行った日に、焦って言うようなことじゃないと思うんですけど」
本当に仁を海外の闇業者に紹介して、高いマージンを得たいのなら、美野里や他のクラブの会員のようにもっとうち解けて、気を許してからでもいいのではないだろうか。
「急ぐには事情があるのよねぇ……」
少し時間を遡って――。
「圭吾さんは、どうして『Xセオリー』に?」
クラブから駅まで送ってもらう途中、隣を歩く圭吾を見上げて、仁は訊いた。今はビスチェもデニムのスカートも着替えて、普段通りの少年の姿に戻っている。
「どうしてって――変かな?」
困った様子の圭吾に、
「あ、すみません。そういう意味じゃ――。ただ、圭吾さんはLGBTじゃないのに、少しもあそこの雰囲気に浮いてないから……」
そうなのだ。彼はあのクラブに集う人たちを自然に受け入れていて、少しも奇異に思ったりすることなく接している。それは、ただそこに慣れているから、というよりも、彼がこだわりなくLGBTを抱える人たちを見ているから、というようにも感じられて……。彼の柔和な表情が、そう見せているのだろうか。
「LGBTに偏見を持っていないことは確かだけど――。彼らは一生懸命で、傷つきやすいし、僕とどこも変わらない。ただ、男や女以外の性、というだけのことで――。だから、君みたいに可愛い子を好きになったりもする」
突然、何の前触れもなく、仁を見つめて、圭吾が言った。
駅に向かう足も、止まっていた。
「え……?」
「もちろん僕はゲイじゃないから、女の子としての君が好きなんだけど」
「……」
面と向かってそんなことを言われても、仁としては困ってしまう。第一、さっきクラブで知り合ったばかりで、それ以前に仁は『女の子になりたい』という願望を持つトランスセクシャルでもなく、こういう展開になる心の準備も出来ていない。
「あ、あの、ぼ――私……」
「今の君が、その体に嫌悪を持っていることも知っているし、答えを急いでいる訳じゃないんだ。――でも、僕で力になれることがあれば何でも言ってくれないか」
優しく、包み込むようなまなざしだった。
「……本当に?」
信じられない、という面で問い返すと、
「More strange than true(不思議すぎて本当とは思えない)!」
大仰に、芝居がかった口調で、圭吾が仁の心を見るように言った。
恐らく、問い返した仁の表情と、その芝居の台詞を引っ掛けて言ったものなのだろうが、そんな台詞が自然と口から零れるなど――。
ひょっとすると彼は、仁が思っている以上に教養のある人物ではないのだろうか。恋を語る時にシェイクスピアを引用する若者など、そうそういない。――いや、身近で聞いたこともない。ますます、この人物のことが解らなくなってしまう一場面だった。
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参考文献
ナルシズム 中西信男著 講談社刊 自閉症 玉井収介著 講談社刊 異常の構造 木村敏著 講談社刊 心理テスト 岡堂 哲雄著 精神病理から見る現代思想 小林敏明著
ナルシズム 中西信男著 講談社刊 自閉症 玉井収介著 講談社刊 異常の構造 木村敏著 講談社刊 心理テスト 岡堂 哲雄著 精神病理から見る現代思想 小林敏明著
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