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Karte.12 性同一性障害の可不可―違和
性同一性障害の可不可―違和 13
しおりを挟む「へぇー、そんなヘラヘラした男が人気があるの?」
さして興味もなさそうに、相槌程度の言葉で、笙子が言った。
だが、ここは彼女が暮らす部屋ではなく、春名と仁が暮らすマンションの一室――ダイニングである。
そして、そのダイニングテーブルに腰を下ろし、おいしそうに仁の手料理を味わっているこの美女は、同じマンションの向かいの部屋に住むセラピスト、霧谷笙子である。彼女もまた春名と同じく、仁の家事能力の恩恵を賜っている一人なのだ。
「おかわり」
遠慮のない笙子の言葉に、
「太りますよ」
仁の皮肉。
「あら、別にいいわよ」
「――またお昼、食べてないんですか? それとも、明日の分の食べ溜めとか」
「子供でもできたかしら」
ブーッ、っと飲んでいたお茶を噴き出したのは、春名だった。
「きゃあっ、キタナイ!」
身を引く笙子と、
「なに本気で焦ってるんですか、先生?」
すぐさま布巾を持ち出す、仁。
二人に白い目で見られ、
「い、いや、ちょっと気管の方にお茶が入って――」
ゴホッゴホッ、とせき込み、苦しい言い訳をしながら、春名はまだ乱れたままの心臓の音を、必死で静めた。
何しろ、笙子には以前、『もう春名との結婚は望まないから、代わりに子供が欲しい』と言われたことがあって――。
――シャレにならないだろ。
自分の不甲斐なさを棚に上げて、一人愚痴る。
そんな春名のことなど気にも留めず、テーブルの上を拭き終ると、
「――で、その圭さんがよく解らない人なんですよ」
笙子の食欲の原因などスルーして、話の続きとばかりに、仁が言った。
「よく解らない、って、何が?」
笙子も同じく、春名のことなどスルーである。
「愛想が良くって、そつもないんですけど――。ぼくと目が合った時、一度、目を逸らしたんです」
「そういう時もあるだろ」
春名は言ったが、仁の方は、
「――で、『あれ?』って思ったんです」
――無視か。
「ぼくは絶対、彼なら笑い返すだろう、って思ったんですけどねェ」
仁がそう思ったのなら、思い違いではないのだろう。
「見た目通りの優しい人間じゃないってこと? ――でも、そんなの社会では普通のことよ。仕事用の笑顔をずっと振りまいていられるはずもないし、ふと気を抜いたところを仁くんに見られて焦っただけかもしれないし――。客商売って大変なんだから」
笙子が言うと、重みがある。普段、社会的地位の高い人たちの悩みを聞き続けている彼女にとって、それがどんなにくだらない偏った悩みであろうと、自分勝手な妄想であろうと、医者として接する限り、誠実でなくてはならないのだから。
「そうなんですけど……」
――受け入れるのか!
「他にも何かあるの?」
「いえ、ないんです」
「なら――」
「でも、ぼくのことを『好きだ』って言うんです!」
ブーッ! と、またここで春名はお茶を噴き出すことになったのである……。
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参考文献
ナルシズム 中西信男著 講談社刊 自閉症 玉井収介著 講談社刊 異常の構造 木村敏著 講談社刊 心理テスト 岡堂 哲雄著 精神病理から見る現代思想 小林敏明著
ナルシズム 中西信男著 講談社刊 自閉症 玉井収介著 講談社刊 異常の構造 木村敏著 講談社刊 心理テスト 岡堂 哲雄著 精神病理から見る現代思想 小林敏明著
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