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Karte.11 黒魔術の可不可―悪魔
黒魔術の可不可―悪魔 27
しおりを挟む「もう生贄は捧げた。悪魔はホラ、君の後ろにいる少年の中に召喚されている」
その言葉に、春名はハッとして祭壇に眠る仁の方を振り返った。
悪魔という存在を――今まで一度も信じたことのない存在を、今、自分がこれほどに恐れ、否定したがっていることが、滑稽だった。
――この仁の体の中に、すでに召喚された悪魔が巣食っている。
そんなことはあり得ない、と否定しても、指先から冷たいものが這い上がって来るのを抑えることが出来なかった。
「……悪魔など、この世にはいない」
そう言ってみても。
夜に響き渡るような嘲笑が舞った。
春名の言葉を嘲るように、三人が肩を揺らして笑っている。
――愚か者よ。
――人間の分際で。
と……。
「何が可笑しい? 悪魔が本当に存在するなら、今ここで俺に見せてみろ! 悪魔の力を示してみろ!」
春名が言うと、また、小馬鹿にするような笑いが零れた。
「人間は皆、己の理解の範囲を超えるモノを否定する。己に見極められないモノを無だと言う」
「……」
何故、この三人はこれほどまでに冷静でいられるのだろうか。
「だが、いいだろう。望み通り見せてやろう。君もまた、その《扉》に捧げられる生贄となるのだからな」
《扉》だという床の魔法陣を示して、西崎医師が高らかに言った。
――君もまた。
今までにもこの魔法陣に生贄としてささげられた者がいたに違いない。小動物だけでなく、恐らく……。
この三人の様子からは、そんな冷酷なことも非情に遂行できる冷やかさがあった。
また、いつの間にか鴉が明り取りの窓に戻って来ている。
「さあ、我が新しき仲間を揺り起してみるがいい。涙の国の君主モロクの新しき肉体を!」
挑戦するような言葉だった。
彼らには、祭壇に横たわる仁が、最早これまでの仁と同一人物ではない、という確信があるのだ。催眠術や記憶操作の類ではなく、彼らの信じるものの力が入り込んでいると。
涙の国の君主モロクという悪魔を召喚したという自信が。
「さあ、どうした? 起こして確かめてみないのか? 君が見せろと言ったものだ。それが今、君の目の前にある」
煽るように、言葉は続いた。
確かに、仁は春名のすぐ側にいて、揺さぶれば目を醒ますであろう規則正しい呼吸をしている。
胸も微かに上下している。
「仁くん……」
起こしてしまってもいいのだろうか。
声はその不安を映すように小さくなった。
「肩を揺すってやった方がいい。まだ眠りは深そうだ」
「……」
――これは仁くんに決まっている。
――仁くん以外のものであるはずがない。
そう思っても、手が震えた。
「仁くん――」
声をかけ、春名は凍えるように震える手で、仁の肩を静かに揺すった。
仁が目醒めれば何もかも判る。悪魔がこの世にいないことも、ここにいる者たちが、狂った悪魔信者だということも――。
――本当に?
彼らが狂人であるというなら、仁がとっくに気づいていたはずではないのか? 仁が彼らを否定せず、興味を持ち、彼らに会うことを楽しみにしていたのなら、彼らが『おかしい』はずがないのでは――。
仁の瞼が、重たげに、震えた。
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参考文献
ナルシズム 中西信男著 講談社刊 自閉症 玉井収介著 講談社刊 異常の構造 木村敏著 講談社刊 心理テスト 岡堂 哲雄著 精神病理から見る現代思想 小林敏明著
ナルシズム 中西信男著 講談社刊 自閉症 玉井収介著 講談社刊 異常の構造 木村敏著 講談社刊 心理テスト 岡堂 哲雄著 精神病理から見る現代思想 小林敏明著
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