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Karte.11 黒魔術の可不可―悪魔
黒魔術の可不可―悪魔 24
しおりを挟む「奥さん、お隣の由利さんが週末、何をされていのるかご存知なんですね?」
春名は訊いた。
診察時に感じていた違和感の意味が、今、なんとなく解ったような気がしていた。
夕子はゆっくりとゴミ袋を地面に下ろすと、少しもためらう様子を見せずに、
「神経質で辛気臭い夫なら、悪魔に売り渡して役に立ってもらった方がいいでしょう?」
と、春名の視線を真っ直ぐ見据えた。――が、すぐに、ぷっ、と楽しげに吹き出し、
「こんなことを言ったら、今度は私が先生の診察を受けなきゃならないですわね」
「……それは、冗談だ、ということですか?」
「当たり前です。由利さんのお宅にそういう話が好きな方々が集まっておられるのは知っていますけど、この現代に悪魔なんているわけないじゃないですか」
「……」
もちろん、悪魔なんていないだろう。そんなものは、戒めのための話に出て来る架空の存在でしかないのだから。
「それとも先生は、由利さんを悪魔だと言う、うちの主人が正常で、悪魔などいないと言う私の方が異常だとおっしゃるんですか?」
正常と異常――。その境界線で分けるなら、少数派が異常、ということになる。ならば今回の異常は『悪魔の存在を信じている人間』ということになるだろう。
「正常か異常かはともかく――」
春名が言いかけた時、地面の底から湧き上がるような、奇妙な声が聞こえて来た。――いや、奇妙なのは声ではない。聞き取ることさえ困難な、耳慣れない言葉の方である。家の中からの声であるため、はっきりと聞き取ることは出来ないのだが……。
『バガビ ラガ バガビ――』
しわがれた異質の響きを持つ声が、屋根裏部屋の小窓で言葉を紡いだ。
「あれは……」
『バガビ ラガ バガビ ラマク カヒ アカバベ カルレリオス ラマク ラメク バカリアス……』
三角天井の屋根裏部屋で、それぞれが低く呟くように、奇妙な呪文を唱え始めた。
左手の祭壇には、西條医師に薬物を打たれ、意識を失くした仁が横たえられている。
そして、床に描かれた魔法陣の中心には、これもまた、意識を失った男が横たえられていた。
その男を取り囲み、
『バガビ ラガ バガビ ラマク カヒ アカバベ カルレリオス ラマク ラメク バカリアス……』
低い声で、何かの呪文が唱えられる。
黒いマントにすっぽりと覆われ、頭には三角の頭巾をかぶっている。目の部分だけが丸く刳り抜かれた、不気味な黒ずくめの格好である。
一人は、西條医師だろう。
そして、もう一人はドラッグストアの店員、君原百合に違いない。
あとの一人は……。男のように見える。骨格や姿勢、足の開き方、肩幅、身長――少なくとも、有名占星術師、斉藤鶴江のものとは思えなかった。
それらの人物は、儀式めいたこの光景によって、さらに不気味な様を呈していた。
明り取りの小さな小窓の外側には、しわがれた声で、三人が唱える呪文に唱和する黒い鳥の姿があった。
夜は塒に帰る習性があるのだから、そこを塒にしているのかも知れない。
巣から落ちたヒナを育てたにしても、鴉の飼育は大変である。彼らは体を軽くするために頻繁に糞尿を排出するため、体臭も含めてかなり臭う。しかも頭がよく、勝手に懐いてしまうため、野生に放しても帰って来てしまう。こまめに掃除をしなくては、窓の外は糞だらけになってしまうだろう。
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