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Karte.11 黒魔術の可不可―悪魔
黒魔術の可不可―悪魔 18
しおりを挟む――十三世紀の悪魔書の呪文のことには、興味がないのだろうか。
今までの集まりでのパターンなら、誰かが興味深い言葉を持ちだすと、決まって誰かが「知っている」と声を上げ、「これのことだろう?」と、そっちの方へ話が流れる。今回もそのまま、その悪魔書の方へ話が流れるのではないかと思ったのだが……。
――何故、今回だけ、皆、その呪文に興味を持たないのだろうか。
どんな呪文なのか、とか、十三世紀の悪魔書とはどの本のことなのか、とか、著者は、国は、原書は……。いつもならそんな風に話が続いて当然だった。仁自身、何度かこの集まりに参加して、皆の好奇心の旺盛さと知識の豊富さに驚かされていたのだから。
「わざわざ人から食べ物を攫って行く鴉でしょ? 私も聞いたことがあるわ」
君原百合が言った。
――悪魔書よりも、鴉の方に気を取られているのだろうか。
人の言葉を模倣する鴉を目の当たりにするのは珍しいし、人間を馬鹿にするように、その手から食べ物を奪って行く鴉もあまりいない。大抵、墓に残されたままの供え物や(本当は供えた者が持ち帰らなくてはならないのだが)、ゴミをあさったりするのが、街中に棲む鴉の生活だ。
「きっと、人をからかって楽しんでいるのねぇ。わかるわ。私も年を取るごとに悪趣味が楽しくなっていくもの」
冗談のように笑いながら言ったのは、斉藤鶴江だった。
「ぼくは誰かが飼っている鴉じゃないかと思うんですよ。オウムも人と暮らして、毎日のように同じ言葉を聞かないと、喋れるようにはならないですから」
皆の――三人の顔を見ながら仁が言うと、少しの間、奇妙な沈黙が部屋に流れた。
だから、それを確信したのだ。あの鴉のことは、この西洋文化の集いのメンバーが、誰よりもよく知っている、と。
「そうか。君は賢い子だったね」
西條医師が言った。
「どうして鴉が悪魔を呼び出す呪文を覚えているんですか?」
誰かが何度も繰り返し唱えていなければ、あの鴉が呪文を覚えるはずもない。そして、そんなことをする理由――。
もしかすると、隣家の住人、静谷章吾の異常は、この西洋文化の集いのメンバーが関係していることなのかも知れない。静谷の息子、灯吾が言っていた『いけにえ』にされた動物たちも、このメンバーが関係していることなのかも……。
「来たまえ。君もいつか誘おうと思っていたんだ」
西條医師が言うと、
「ちょっと! まだ早いんじゃないかしら?」
「そうよ! 由利もいないのに、そんな勝手な!」
女二人が反対するように腰を上げた。
だが、西條がそう言ってしまった後で、「やっぱりやめよう。なかったことにしてくれ」で済む問題でないことも判っているらしく、一応、形として止めただけであったのかも知れない。
「ここで問答していては、彼の疑惑が深まるばかりだ。――そうだろう?」
西條医師の視線が、仁へと向いた。
挑戦的な眼差しだった。
このまま何も訊かなかったことにして帰ることも出来ただろうが、それを嘲笑うかのような瞳だったのだ。
「……何処へ行くんですか?」
仁は訊いた。
「屋根裏部屋だよ。鴉の巣がある」
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