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Karte.11 黒魔術の可不可―悪魔
黒魔術の可不可―悪魔 17
しおりを挟むこの週末も、由利は新しいプロジェクトの責任者として、持ち帰りの仕事が忙しく――土曜日であろうと出社していて、なかなか時間が取れないようだった。
それでも、勝手知ったる他人の家――。皆、主が留守でも集まって、我が家のようにくつろいでいた。
他の人たちとは話せないような共通の話題を持つ仲間意識が、皆に家族のような繋がりを持たせているのかも知れない。
「あれ、少し痩せました?」
いつもの通り手料理持参で訪れた西洋文化の集いで、仁は占星術師の斉藤鶴江の雰囲気の違いに問いかけた。
「わかる? TV出演のストレスがなくなったせいか、イライラしてお菓子に手を出すこともなくなったのよ。お付き合いの外食も減って、最近じゃ健康志向の自然食レストランがお気に入りなの」
「なんだか若返ったみたいですね」
仁は、正直に思ったままを口にした。
実際、斉藤鶴江は十歳も若返ったようだったし、痩せてきれいになっていたのだから。
「あら、お世辞でも嬉しいわ」
斉藤鶴江もまんざらではなさそうで、上機嫌。
「由利さん、今週も土曜出勤なんですね」
今日もこの場に居るのは、医師の西條稔彦と、ドラッグストアの店員、君原百合、そして、この斉藤鶴江だけである。
「やっと仕事から解放された時には、ストレス太りをしているかもね」
皮肉げに笑って、君原百合が言った。
斉藤鶴江の機嫌が、少し悪くなったようだった。それでも――、
「ねェ、暁春くん、服はいつもどこで買っているの? 決まったお店があるのかしら?」
と、お茶を入れながら、笑みを見せる。
そういえば最近、西洋文化の話題以外にも、ちょくちょく話が他に移ることがあった。仁がこの集まりに打ち解けて来たせいでもあっただろうし、これまでもそうだったが、仁が自分の知識を語るのに一生懸命で気づいていなかっただけかも知れない。或いは、そのどちらでもあったか。
その後もいくつか学生同士の情報交換のような質問が続いて、
「新興住宅街って、ご近所づきあいとか難しくないんですか?」
仁は、西洋文化とは関係のない日常の会話が続いたことを幸いに、春名と話していたことを訊いてみた。――いや、それこそが最初の目的だったのだが、皮肉にも静谷が診察に来なくなってから訊くことになるとは――。
「そうねェ、マンションみたいにお付き合いなしとは行かないし、自治会の役もあるから、普段から仲良くしておかないとねェ」
「気難しい人がお隣さんだったりしたら大変よ」
女性二人の言葉に、
「田舎の付き合いほどじゃないだろうがね」
と、西條医師のフォロー。どれも、週刊誌を開けば載っているような言葉である。
そして、仁はそんな言葉を聞きたかったわけではない。
「この隣の家の人は、この集まりに来られたこととかないんですか?」
何気なさを装って訊いてみる。
「隣? 誘ったことも、声をかけられたこともないなァ」
応えたのは、西條医師だった。
「――どうしてだい?」
と、仁の質問に問い返して来る。
「いえ。以前、隣の子に声をかけられたことがあるんですけど、《悪魔》とか《化身》とか《生贄》とか、小さいのに色々なことを知っていて――、ふと、お隣さんもここに参加していたことがあって、家でそんな話をしているから、あの子もそれで覚えたのかな、って思ったんです」
「ああ、なるほど。最近の子は、ゲームやアニメで色々なことを知っているからね」
「あ、それと、鴉がいたんです」
「鴉?」
「ええ。オウムのように人の言葉を模倣する鴉で、十三世紀の悪魔書に記されている、悪魔を呼びだすための呪文を唱えていて……」
仁が言うと、
「ああ、知っているよ。実際、目にしたことはないが、話をする賢い鴉がいることは、このあたりでは評判になっている」
ごく当たり前の調子で、西條医師は言った。
だが、それが仁には気になった。
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