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Karte.10 天才児の可不可―孤独

天才児の可不可―孤独 19

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 それからも春名はちょくちょくと顔を出し――もちろん、春名だけでなく、母親もドクター・ニコルズも顔を出したが――、話が出来るようになった暁春は、誰とも口を利かないどころか、目を合わせてもやるものか、と思っていた――のだが……。
「さっき、ロージーと会って来たんだが、君のことを心配していたよ」
 そんな言葉に、
「嘘ばっかり」
 思わず初っ端から、返事を返してしまっていた。
 どうも、この精神科医は、人がどんな言葉を持ち出せば口を開くのか、本能だか、経験だかで心得ているらしい。
「バレタか」
 と、軽く片目を瞑って見せる。
「嘘つきの精神科医とか、最低」
 ムスッとした顔で、暁春は言った。
 すると、春名はクスクスと笑い、
「まあ、心配の言葉は聞けなかったが、君のことを知りたがっていたのは本当だよ。――彼女はきっと、君のことが好きだったんじゃないのかな」
「殺そうとしたのに?」
「自分の気持ちに気付かないことは、誰だってあるさ」
「……」
 ――自分の気持ちだからこそ、気付かないようにしていることだって……。
「君は、女の子に充分モテるくらい、可愛い顔をしているよ」
「褒め言葉でない上に、余計なお世話です」
「そう言えば、君のお母さんも美人だなァ。遺伝子的に当然と言えば当然だけど」
 何を言っても、懲りないし、怒らない。
 その上――、
「――年齢制限ないんだ……」
 ――俗物。
「ん? 何か言ったかい、仁くん?」
「別に」
 逃げ場のないベッドの上、ということもあったが、知らない内に、この精神科医と話をすることが、当たり前のようになっていた。
 学校の話も、メンタルな話も、もちろん能力についての話も何もなかったが、春名が無理をしてそれらの話を遠ざけているようにも思えなかった。まるで、ここに雑談をしに来ている風でもあったのだ。
 事実、中身は『美人話』中心の雑談だった。
 彼は、こんな風に、ロージーのことも追い詰めることなく、話をすることで救い出したのかも知れない。
 一人で猫殺しの犯人を探し出そうとして、結果的にロージーを追い詰め、殺人犯にしてしまうところだった暁春とは、まるで、違う。
 彼なら、もしかして――。
 もしかして……。


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