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Karte.9 民俗学の可不可―奇習

民俗学の可不可―奇習 28

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 仁は、二階から届く窓明かりで、わずかに照らし出されている梯子を、駆け上がった。
 瓦屋根を、灯りの点いた窓まで渡り、細く開いたカーテンを開け放つ。
「サラサ!」
 明るい部屋の中で見たものは、乱れた床で、一人の少女を組み敷く、三人の少年たちの姿だった。
 ズボンを脱ぎ捨て、この村の風習という言葉を正当化し、嫌がるサラサを強姦している。――これでもまだ、この村の人々は、自分たちのしていることを誇って引き継げる、というのだろうか。
「やめろ!」
 仁が窓に足をかけると、
「来ないで――!」
 涙に濡れたサラサの声が、耳に届いた。
「だとさ」
「他所者には関係ないんだよ。沼尾のところみたいになりたくなけりゃ、さっさと出て行け」
 嘲笑うような少年たちの言葉が、後に続く。
「……サラサ?」
「いや……。来ないで! 私を……見ないで」
 彼女がどれほど傷つき、絶望しているか、すぐに知れる言葉だった。
 そして、サラサの言葉は重すぎて、仁は窓に足をかけたまま、動くことが出来なかった。
 だが――、
「行くんだ、仁くん!」
 背中を押すような声が聞こえ、仁の足は自然に部屋へと踏み込んでいた。
「いやあっ! 見ないで! こっちに来ないで!」
 足を開かれ、少年の一人に腰を突き付けられる中、サラサの悲痛な叫びが血を吐くように聞こえて来る。
 仁は足を止めなかった。
 サラサを抑えつける少年の一人を突き飛ばし、その勢いで、足の狭間で腰を突き動かす少年にぶつかった。
「大丈夫だから……。もう大丈夫だから」
 仁が膝を折ってサラサを起こすと、
「こいつ、調子に乗りやがって――」
 少年たちが邪魔をされた腹いせに、仁の周りを取り囲んだ。
「これは村の風習でも何でもない! ただの強姦だ」
 嫌がっている少女を、力ずくで犯すなど――。
 サラサの肩が、強姦、という言葉に、ピクリ、と動いたが、
「大丈夫。君には何の落ち度もない。――能年さん、警察に通報してください。これは歴とした犯罪です」
 廊下に続くドアを見据えて、仁は言った。
 親なら、子供の身が心配にならないはずがない。村八分を恐れて、村の風習に従うしかないとしても――。廊下で様子を窺っていることはすぐに知れた。
「は、犯罪って――。オレたちは……!」
「彼女の同意があったとは思えない。それに――。さっき口にした『沼尾のところみたいになりたくなけりゃ――』これも、通報しておかないと」
 仁が言うと、
「お、おい、やばいぞ」
「クソっ。こんなこと、誰でもしてることなのに!」
「行くぞ!」
 少年たちは、来た時と同様、二階の窓から梯子を使って逃げて行った。
 法的に認められることではない、という認識はあるのだろう。
 そんな少年たちを振り返りもせず、春名が廊下に続くドアを開ける。


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