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Karte.9 民俗学の可不可―奇習
民俗学の可不可―奇習 22
しおりを挟むこんな田舎町の人間とは違った、白い肌。
男の子なのにきれいに整った顔立ちで、首筋も細く、髪だって櫛もいらないくらいにさらさらしている。
だから、きっと都会には、彼を振り向かせるような、可愛い女の子がたくさんいるに違いない。
サラサのことなど、その辺りの案山子と見分けもつかないくらいに……。
鏡の前で、自分の日焼けした顔と、少しも流行りでないショートカット、もうずっと昔から同じデザインのダサい制服――そんなみっともない姿を眺め、サラサは瞳を潤ませた。
バスで声をかけたのも、決して、謝りたかったから――そんな理由だけではない。
見たこともないきれいな少年が乗っていて、ドキドキして、どうしても話をしてみたかったのだ。
だが、そんな自分の醜さなど、きっと見透かされていたのだろう。
「結婚させられる」と告げても、「断れば」と素っ気ない言葉しかかけてもらえなかったのだから。
こんな田舎町で、少しばかり『可愛い』と言われたことがあるからといって、都会から来た人に、相手にしてもらえるはずもないのに……。
その上、一方的に拗ねて帰って来てしまうのだから、さらに悪い。もう口もきいてもらえないかも知れない。
「どうしよう……」
結婚を断れば、赤飯が奥美里の年頃の男子がいる家庭に配られることになる。――いや、そんなことは建前で、赤飯が配られたことが伝われば、厚顔無恥の性欲を漲らせた男たちが、若い子たちにまじって忍んで来ることもあるという。
「それはそれでテクがあっていいのよ」
「キスはご免だけどね」
「ちょっとしつこいけど、イカせてくれるし」
すでに初潮が訪れ、奇習に従った友人たちは、そんな風に大人ぶった口調で語って見せた。
サラサは初潮が遅かったこともあって、今まで未経験で過ごしてきたが――。いや、本当は初潮などずっと来て欲しくはなかった。好きな人に出会い、この村を出るまで、そんなことはしたくなかったのだ。
「ばかね、都会でだって、処女のまま結婚する女なんていないわよ。それを思えばどこで処女を捨てようと一緒」
「そうそう。まだぎこちない同級生とも、イカせてくれる大人とも、好きな時に誰にも咎められずに出来るんだから、いいじゃない」
「そりゃ、ヤな相手だっているけど、こっちは好きな人を選んで問答無用で結婚出来るんだから」
「みんな、その日が来るのを心の中では待ってたりするのよ。男だけじゃなく、女も、ね」
――そんなことはない……。
少なくともサラサは、この日を待ってなどいなかった。少女マンガの世界のように、好きな人とだけ触れ合って、愛し合って、その人の子供を産む――そんな幸福な日を夢見て来たのだ。
もちろん、最近は少女漫画だって、初恋の人とは結ばれないし、初めての人と結婚するわけでもない。
この村の誰もが言うように、結婚制度、などという不合理な制度よりも、全ての村人が家族で、皆で子供を育てるこの村の風習こそが、合理的なものなのかも知れない。
それでも……。
「いやだ……」
何故、自分だけがこの風習に馴染めないのかは判らないが、厭なものは厭なのだ。
たとえ、皆が心待ちにし、性欲を満たす日々を望んでいるとしても。
階下から、赤飯の匂いが立ち込めて来た。
どうするか決めなくてはならない。
父も母も鷲見の家に嫁いで、桂一郎の嫁になるものと決め付けているが……。
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参考文献
ナルシズム 中西信男著 講談社刊 自閉症 玉井収介著 講談社刊 異常の構造 木村敏著 講談社刊 心理テスト 岡堂 哲雄著 精神病理から見る現代思想 小林敏明著
ナルシズム 中西信男著 講談社刊 自閉症 玉井収介著 講談社刊 異常の構造 木村敏著 講談社刊 心理テスト 岡堂 哲雄著 精神病理から見る現代思想 小林敏明著
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