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Karte.9 民俗学の可不可―奇習

民俗学の可不可―奇習 8

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「前のロシアの時もそうでしたけど、先生、絶対に雨男ですよね……?」
 恨めしげに春名を見上げて、仁が言った。
「俺じゃないだろ?」
 互いに不運をなすりつけ合いながら、
「でも、閉鎖的な処ですよね?」
 笙子から聞いたやり取りのことや、さっきの少女のこと――。
「田舎だからなぁ」
 全部その言葉で片付けてしまうのも、どうかと思うが。
「変な儀式とかやってて、笙子先生の元恋人が生贄にされてる、とかないですよね?」
「あるかも知れないぞぉ……。地方の奇習、密教、伝説は今でも残っていたりするからなぁ」
 目一杯怖がらせるように、春名は言った。
 とはいえ、仁もそんな話に怯える年ではないので、
「記憶を失くして生贄になったりしないでくださいね! ぼくが大変なんですから」
 と、皮肉だけを返して見せる。
 この辺りのことは、まだロシアでの一件を引きずっているのだな、と思っていただければいい。春名は覚えていないが、仁は大変だったようなのだから。
「ひょっとしたら、笙子先生の元恋人のことも、教えてもらえないかも知れないですね」
「……。さっきから意図的に『笙子の元恋人』って呼んでないか、仁くん?」
「そうですか? 気付かなかったですけど」
「……」
 ――絶対、ワザとだ。
「笙子先生の元恋人が、本当にこの村の人だったとしたら、どうして部外者の笙子先生に助けを求めたんでしょうね?」
「……」
 ――やはり、ワザとだ。
「そりゃ、笙子が精神科医だからだろう」
 何しろ、手紙には《 皆、狂っている 》と書かれていたのだから。
「でも、本人も医者だったんですよね、民俗学に嵌るまでは?」
「専門があるからなぁ。俺だって精神疾患のある患者が来たら、外科や内科から呼ばれるぞ」
「それは解ってますけど――うわっ! 光った!」




 空を真っ二つに切り裂くような閃光が走り、大地を揺るがす轟音が渡った。
「……近くに落ちましたよね?」
「落ちたな」
 まだ耳が痺れているような、凄まじい限りの雷鳴だった。
「申し訳ないけど、勝手に小屋に入らせてもらおう。軒先じゃ危険すぎる」
 そう言って春名は、鍵もかかっていない農具小屋の引き戸を開けて、暗い中に仁と共に入り込んだ。
 こういう時は、鍵の要らない田舎の不用心さがありがたい。皆が知り合いのようなものだから、そんな用心も不要なのだろう。
 耕運機というのか、トラクターというのか、皆が利用するために共同で購入して、ここに置いてあるのかも知れない。壁際には、鍬や鋤、鎌や斧、色々な道具が立てかけられている。
「これって、小説なら凶器になるモノばかりですよね……?」
「心配するな。ここは現実世界だ」
 ――え?(作者)


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