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Karte.7 吸血鬼の可不可-血
吸血鬼の可不可-血 33
しおりを挟むサイレンの音が、夜の街に高く響いた。
「速く! もっと速くっ!」
仁は、その音に急かされるよう、運転手の背中に声を投げた。
子供一人ではタクシーも止まってくれず、コンドミニアムのガード・マン、クリフに頼んで、やっと止めてもらった車の中である。それは今、パトカーを追って、一つのホテルを前にしていた。
すでに夜中――。
運転手の怪訝そうな顔も、前払いで渡してある料金のためか、文句に変わることはない。
ホテルを前に、車が止まった。
仁は、タイヤが完全に止まる時間ももどかしく、ドアを開けて車の外へと飛び出した。
赤い光が回る中、ホテルの中へと突き進む。
その姿はすぐに、目についた。
「ドクター.春名っ!」
と、ロビーに立つ長身の青年を見て、床を蹴る。
心が何もかもを忘れる刹那であった。
「……どうしたんだ、仁くん? DVDが終わったら寝なさい、と言っただろう」
春名は、突然現れた仁を見て、咎めるように、それでも優しく、そう言った。
「ぼく、心配で……っ。ドクター.春名が……ドクター.春名が、あの人と……」
仁は、すがるように春名を見上げ、心の中の不安を訴えた。
「……。勘がいいな。迂闊に悪いことも出来ない」
「え……?」
「い、いや、何でもっ」
春名は慌てて、首を振った。
周りでは、忙しなげに警官たちが動いている。
二つの担架が、その合間を横切った。
一人はレオ――そして、もう一人は、レオに殺された少年である。
「あの人……死んだの?」
安らかな表情で瞳を閉じ、担架で運ばれるレオを見て、仁は春名の顔を茫と見上げた。
「いや……。夢を見ているだけさ。もう、彼を拒む者などいない、暖かい夢を」
そう――。求めるものを手に入れた彼は、孤独のない世界で眠り続ける……。
完
※次回『Karte.8 青い鳥の可不可―迷走』を掲載します。
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