140 / 350
Karte.7 吸血鬼の可不可-血
吸血鬼の可不可-血 23
しおりを挟む「昨日、寝たのが遅かったから……。だから、寝不足で……」
と、その言い訳を口にする。
「そうか……。子供がクリスマスに一人で泣いている、というのは、あまりにも不憫でやれ切れない。そんなことは、ここがシカゴであっても、あってはならないことだ」
「……。何か御用ですか?」
仁は、レオを見据えて、冷たく訊いた。優しげな言葉も、もう警戒を解く鍵には、ならなかった。
フッ、と苦笑のような笑みが、零れ落ちた。
「実は、あの連続殺人事件の犯人の目星がつきそうでね。先日も一人、ホテルで少年街娼が殺されて――。知っているだろう?」
レオの問いに、仁は、コクリ、とうなずいた。
聖夜を迎えるための十字架も、吸血鬼の犯行を阻止することは出来なかった、と報道された事件である。
「その事件には残念ながら間に合わなかったが、今、吸血鬼妄想を持つ男が一人、捜査線上に浮かび上がっている。唯一助かった少年が証言した通りの白人男性だ。――そのことを君に伝えて、安心させてあげようと思ってね」
レオは、暖かい眼差しで――それでいて、体中が凍りつきそうになる眼差しで、そう言った。仁の反応を窺うように、じっと視線を向けている。
「……ぼく、犯人捜しに協力しない。そんな能力なんか持ってない。その人を見ても、血なんか視えない」
仁は、頑なな言葉で、唇を結んだ。
「解っているさ。ただ……君は、私の幼い頃に似ているのでね」
「え……?」
「同じ中国系だから、というのではなく……。何となく」
「……」
何となく、似ている……。仁は、その言葉の意味を、噛み締めた。
「ああ、それから、これは君へのクリスマス・プレゼントだ。――受け取ってくれるかい?」
そう言って、レオがコートのポケットから取り出したのは、リボンの掛かった、手のひらに乗るほどの小さな四角い箱であった。――いや、四角は四角でも、柩のように細長い箱だ。
「ぼく、あなたにプレゼントをもらう理由は……」
「君に厭な思いをさせた代わりだと思ってくれればいい。君のために選んだものだ」
と、仁の手に柩を――いや、四角い箱を握らせる。
「でも――っ」
押し返そうとした時だった。レオのコートの袖口から、白い包帯が垣間見え、仁は少し、眉を寄せた。
まだ新しい傷である。もちろん、刑事なのだから、いつ怪我をしてもおかしくはないだろうが、それでも、不思議と胸騒ぎがする傷だった。
「ん? この包帯かい?」
レオもその様子に気がついたのだろう。仁の視線を見て、口を開く。
「これは、この間、強かに酔った連中の相手をした時の傷だ。クリスマス前には、そういう連中が多くてね」
と、軽く言う。――いや、本当に軽い言葉だったのだろうか。
「……この間?」
「気にしてくれるのかい?」
心の底まで見透かすような視線だった。
仁は、追い詰められる恐怖に、後ずさった。
「ぼく――」
言葉はそれ以上、続かなかった。クリフが外へ出て来たのだ。
「カイル、お客様なら、ドクター.春名に連絡をしてあげようか?」
と、春名と同じ年頃で、同じアジア人たるレオを見ながら、問いかける。誰が見ても、春名の友人に見えるのだろう。
「あ……ううん。ぼく、もう部屋に戻るから」
仁は、クリフの言葉に首を振り、レオの顔をもう一度、見上げた。そして、もう何も言わずに、エレベーター・ホールへと翻った。
背中に視線を感じていた。
エレベーターの扉が閉まるまで、腕をつかまれそうな恐怖が、あった。
レオの顔を見上げた時、最初に逢った時と同じように、唇に朱い血が視えたのだ。それは、匂いさえも放つように、生暖かい色に濡れていた……。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる