可不可 §ボーダーライン・シンドローム§ サイコサスペンス

竹比古

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Karte.7 吸血鬼の可不可-血

吸血鬼の可不可-血 20

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 ベッドで突き上げられる度に、少年の肢体が淫らに反り、苦痛のような喘ぎが、何度も、零れた。
 窓の外には、クリスマスのイルミネーションが輝き、じきに聖夜が来ることを、告げている。
 そう――。もうそんな季節なのだ。
 背後から伸びる指先が、弾けそうになっている少年の官能を握り締め、前後に巧みに扱き立てる。
「あっ、はあ……っ! イク……。も……ああ――っ!」
 白い雪が、シーツに、舞った。
 熱い脈動を刻む肢体が、解放の波に崩れ堕ちる。
「……日本人が、何故ヨーロッパでモテるのか、わかるような気がする……。東洋人は、ミステリアスでエキゾチックで、とてもセクシーだ……」
 少年は、まだ荒い呼吸の中、微睡みに溶けるように、呟いた。
 外は、ミシガン・レイクから吹き付ける強風のせいで、体感温度がマイナス四〇度近くにもなる凄まじい寒さだというのに、この部屋の中は、そんなことなど感じさせないほどに、情欲の熱に満たされている。
「あんたも知ってるだろ? 今は、あの事件のせいで、みんな白人客を避けてるんだ。もちろん、吸血鬼なんか怖くもない、って豪語する奴もいるけどさ。どっちにしても、黒人やアジア人――有色人種は引っ張りだこさ。――おれもその一人だけど」
 東洋の逞しい肌を見つめて、囁きかける。
 たった一人、吸血鬼の餌食にもならず、缶ビールを投げ付けて吸血鬼を退散させた少年の証言で、連続殺人事件の犯人が白人男性であることが判ったために、誰もが、黒人やアジア人を警戒の対象から外していたのだ。
 青年の唇が、薄く、歪んだ。
 怜悧な面貌と、顎の下で切り揃えられた真っすぐの髪が、煙草の紫煙の中に、浮かび上がる。
「あんた見てると、ゾクゾクする……。東洋人は、皆、あんたみたいに無口なのかい?」
 逞しい体躯に指を這わせながら、少年は訊いた。
「……。小さい頃、仲の良かった友人がいた」
 青年は、煙草の灰を、トン、と弾き、何の関係があるのか、そんなことを話し始めた。
「ふーん。それがあんたの最初の相手かい?」
 少年は、訊いた。
 からかいを含むその問いかけにも、青年の表情は変わらない。
「……何度も、彼を犯す夢を見た。彼を貫き、彼の下肢の狭間から伝う血を、想像した。その血を舐めてみたいと……。そんなことも考えるようになった」
「今の時期に、タチの悪いジョークだな」
「フッ……」
「おれ、先にシャワー使うぜ。東洋の吸血鬼に血を吸われてみたい気もするけど、商売が出来なくなったら困るからさ」
 少年は、軽い口調で受け流し、ベッドを降りて、バス・ルームに向かった。
 青年は、その姿を黙って見送り、煙草を灰皿に押し潰した。
「ジョーク、か」
 と、ポツリと呟き、バス・ルームからのシャワーの音に、耳を澄ます。
 注ぎ落ちるシャワーの飛沫は、血の流れと同じように、体の奥を熱くする。
 唇の端を少し持ち上げ、青年は、バス・ルームへと足を向けた。
 ドアを開けると、シャワーの音が大きくなった。
 バス・タブを隔てるカーテンの向こうでは、少年がシャワーを浴びている。
 青年は、洗面台の前で足を止め、そこで少し、眉を寄せた。
 その時、バス・タブを覆うカーテンが、大きく開いた。
「あんたの捜し物はこれかい?」
 と、少年が、鋭利なカミソリを手に、姿を見せる。
 青年はわずかに、目を瞠った。
「あんたの顔は、よく覚えてるんだ。ロイは、あの日、あんたに買われてホテルに行った。そして、次の日には死体で発見された。――吸血鬼はあんただっ!」
 少年は、銀色の鋭い刃を振り上げた。
 ためらいのない光が、飛沫を切る。
「痛っ!」
 呻きと共に、朱の一線が、青年の腕を駆け抜けた。
「次が最後だ!」
 少年は、再び光を振り上げた。
 聖なる夜が近づくその日、バス・ルームは、真紅の血に塗り替えられた……。


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参考文献
ナルシズム 中西信男著 講談社刊 自閉症 玉井収介著 講談社刊 異常の構造 木村敏著 講談社刊 心理テスト 岡堂 哲雄著 精神病理から見る現代思想 小林敏明著
感想 11

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