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Karte.7 吸血鬼の可不可-血
吸血鬼の可不可-血 17
しおりを挟むそんな煩悩の中、エレベーターが止まり、二人はショッピング・モールに繰り出した。
どこへ行っても、春名と仁は大抵親子に間違えられ、一々説明するのも面倒なので、今はもう否定することもやめている。顔立ちはそう似ている、という訳ではないが、同じアジア人であり、同じ年頃の子供と比べても小柄な仁と、長身の春名は、アメリカ人から見れば、親子に見えるらしい。
もちろん、春名にしてみれば、十六、七歳の時に子供を作った覚えはないのだから、心外と言えば、心外なのだが。――付け加えておけば、その年に春名がセックスを知らなかった、という意味では、ない。
「これなんかどうだい、仁くん? 履き易そうだし、デザインもいい」
手近な靴屋に足を入れ、春名は、目についたブーツを一つ、持ち上げた。
仁は、しばらくそれを眺めていたが、気に入らない様子で顔を上げ、
「……ドクター.春名って、金銭感覚が全然ない」
と、値札を見せる。
ちょっと驚く値段であった。子供のブーツが、何でこんなに高いんだ、と言いたくなるほどの。
そして、確かに春名は、仁の言葉の通り、自分で買い物をする、ということには向かないタイプだった。いつも女性に選んでもらっていたせいもあるのだろうが、こういうことは、母親と二人で暮らしていた仁の方が、余程しっかりとしている。
「あー……そうかな。――でも、いいものの方が長く使えるだろ?」
子供に言われっ放しなのもしゃくに障るので、春名は思慮深いところを見せるように、その言葉を持ち出した。
仁は、ブンブン、と首を振り、
「ぼく、来年には背も伸びて、足も大きくなるから、もう履けない」
これでは、次の言葉は出て来ない。確かに仁の言葉の方が、正しい。このくらいの年の子供は、あっと言う間に大きくなる。
それでも、引き下がるのは、春名のプライドが許さない。
「なら、来年、また買えばいいじゃないか。これなら、友だちもみんな羨ましがる」
「友だちなんか、いないもん」
結構、手ごわい。どころか、妙なところで頑固である。こういうところは、アメリカ人の特徴かも知れない。――いや、中国人や日本人は、たとえアメリカで生まれ育ち、アメリカ国籍を持っていても、不思議と『アメリカ人』と呼ばれることはない。ドイツ人やフランス人なら、すぐにもアメリカ人と呼ばれるのに、中国人や日本人は、飽くまでも中国人と日本人なのだ。いいところ、中国系アメリカ人、日系アメリカ人、という呼び方だろう。黄色人種を見て、アメリカ人、と呼ぶ人間は、この国には、いない。
「これを履けば、友だちが出来るかも――」
「そんな友だち、要らない。――ぼく、自分で探して来る。ドクター.春名の言う通りにしてたら、いくらお金があっても足りないもん」
しっかりしている、というか、すっかり主婦の感覚である。完璧に、大ざっぱな春名のフォローに回っている。
「ここで待っててねっ。勝手に動き回って、他のを買っちゃダメだよ」
と、生意気に言う。
「ムッ」
としたが、春名が言い返す間もなく、仁は、タカタカと他のコーナーに行ってしまった。
「何で、九つの子供に嗜められなきゃならないんだ、俺は」
その言葉を仁が聞いていたら、きっと、こう言っただろう。
春名は、買い物という日常のことに、且つ、面倒なことに頭を使いたがらないから、と。
確かに、息子を医者にしようという、それなりに裕福な家庭に生まれ育った春名には、金でカタのつくことなら、考えずに買ってしまった方が楽だ、という考えがあり、金ではどうにもならない博士号や、クランケのことに頭を使った方が、価値がある――という考えを持っている。そのことは、否定できない。
そんなことを考えながら、春名は、ブーツを選ぶ仁の様子を眺めていた。
不意に、肩に手が乗ったのは、その時だった。
振り返ると、そこには……。
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