可不可 §ボーダーライン・シンドローム§ サイコサスペンス

竹比古

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Karte.4 児童精神医学の可不可-他人

児童精神医学の可不可-他人 11(暴力描写あり)

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『おまえの学校、頭のおかしい奴が行くんだろっ。かーちゃんが言ってたぞ。あそこには変なやつが集まっているんだ、ってな』
『――。違うよ。頭のいい選ばれた天才だけが行けるんだ。君たちみたいな間抜けには解らないよ』



 皆、同じ異端視を、仁に、向けた。



『君たちの知能の高さは決して異常ではない』
 口ではそう言う学者たちでさえ、仁を普通の人間としては、見ていなかった。誰一人として……。



「ブタ箱での暮らしがどんなものか教えてやろうか、Boy?」
 そう言って、ブライアンが、後ろにねじ上げる仁の腕を、さらにぐりっとねじ上げた。
「く――っ!」
 再び、激しい痛みが駆け抜けて、仁は、ギュっときつく目を暝った。
「こんなもんじゃない。ぶち込まれたばかりの頃は、随分痛い目に合わされたよ。毎日のような暴力、まずいメシと臭い部屋。入ったその日にケツを掘られて――」
「う……あ……っ」
「気が狂いそうになるほどの酷い世界だ。看守は見て見ぬ振りで、止めにも来ない」
 ブライアンは、ジリジリと仁の腕を痛め付ける。
 途切れることのない激痛に、額には薄い汗が滲んでいた。
「う……。ぼくの……せいじゃ……な……い……。あなたの……罪だ……」
「おまえのせいだ――っ!」
 ブライアンが仁の腕を限界以上にねじ上げた。
 ごりっ、という音と共に、腕が別の方向へと折れ曲がる。
「うああああ――――――っ!」
 仁は喉の奥から叫びを上げた。
 凄まじい痛みが狂気をもたらし、瞼の裏まで痺れさせる。
「あっ、あっ……う……」
 腕は完全に、捩れて、いた。そして、ブライアンが手を放すと、ぶらり、と床に垂れ下がった。
 骨が折れた、のだ。
「次はどこがいい? 喋れなくなるように舌でも抜いてやろうか? それとも、目でも潰して欲しいかい?」
 仁の襟を締め上げて、ブライアンは冷酷な口調で、ヤニ臭い歯を、口から零した。
「あ……ぅ……。痛……く……」
 目が眩むような痛みの中、仁には応えることすら出来なかった。
「腕くらいで済むと思うなよ、Boy。俺が受けた痛みと屈辱は、こんなもんじゃない。俺がブタ箱を出るまで狂わずにいられたのは、おまえを捜し出すためだ。捜し出して、礼をするために。――本屋で偶然、あの男の写真の載った本を見つけた時は、飛び上がるほどに嬉しかったぜ」
「――」
 ――あ……。
 春名が書いた本のことを言っているのだ。
 仁はそのブライアンの言葉に目を瞠った。
 この男は、春名のことも恨んでいる。
「神は俺の味方だ。お陰でここも捜し出せた。――あのジャップ、お偉い学者様だってな? いい大学を出て、精神分析学者サイコアナリストで、精神科医サイキアリスト――。違ったかい?」
 ブライアンが、ニヤリ、と分厚い唇を捲り上げる。
「先生……は……。春名先生……は……関係……ない……っ」
「へェ、そうかい――っ!」
 仁のもう片方の腕がねじ上げられる。
「うあ……っ!」
 体中に汗が吹き出し、痛みで意識が茫と霞んだ。
「あの時のチビが、随分とキレイになったじゃねーか」
「う……」
 ブライアンの言葉は、薄れて、いた。――いや、薄れていたのは仁の意識の方だったかもしれない。すでに、ブライアンの声も遠くなり始めている。
「まだまだ楽しませてもらうぜ」
 ブライアンは仁の体を床に組み敷き、銀色のナイフを取り出した。
 光る刃が、仁の服を、縦に、引き裂く。
 白い肌が、露になった。少年らしいラインのしなやかな肢体――。
 その中、仁は、床の冷たさだけを感じていた。


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参考文献
ナルシズム 中西信男著 講談社刊 自閉症 玉井収介著 講談社刊 異常の構造 木村敏著 講談社刊 心理テスト 岡堂 哲雄著 精神病理から見る現代思想 小林敏明著
感想 11

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