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Karte.3 沈黙の可不可-声
沈黙の可不可-声 16
しおりを挟む食事の時間は楽しく過ぎて――春名はともかく、仁とランディには楽しく過ぎて、お風呂。
「動いちゃダメだよ。シャンプーが目に入るだろ」
髪を洗う仁の言葉に、ランディは、ピタリ、と動きを止め、目も口も鼻も、ギュっと閉じる。
「クス。――シャワーをかけるよ」
「!」
今度は降り注ぐシャワーに緊張する。
――本当に可愛い。
跳ね返る飛沫と、柔らかい照明。
仁は、目を暝るランディを見て、その愛らしさに笑みを零した。
「――はい、おわり」
と、シャワーを止めると、ランディは、ホッとしたように顔を上げた。その仕草も愛らしい。
「さ、お湯に入って」
マーブルのバスタブにランディを促し、仁も同じように身を沈める。
「家では一人で入る?」
「(Oui)」
「たまには、こーゆーのもいいよねっ」
「(Oui)!」
外国の子供は、日本の子供と違って、外での躾が行き届いている。それ故に、こんな子供なら預かっても苦にならない、と思わせる。もちろん、一日だけだからそう思うのかも知れないが――。
二人で湯に浸かっていると――。
――ん。
仁は湯の中の感触に眉を寄せた。
小さな手が、その部分を突っ突いている。
「こーらっ。変なとこ触るなよ。君だってついてるだろ」
と、目の前のランディを睨みつける。
ランディは、へへェ、と頭をかいて、薔薇色に染まった頬で、じっと仁の顔をのぞき込んだ。
「ん?」
《にーさまといっしょに入った》
と、指でバスタブに文字を綴る。
「そう。――おにーさんも、君と同じ金髪?」
「(Non)」
「ん? ――茶色? ――瞳は鳶色?」
「(Oui)」
「そう。――ホラっ、肩まで浸かって。十数えるよ」
アン、ドゥ、トロワ、キャットゥル、サンク、シス……ディス。
「ぼくは彼を寝かせて来ますから」
そう言って仁が部屋へと消えたのは、一時間ほど前のことである。春名の部屋ではなく、仁の部屋へ。
だが、それから一向に戻って来ず、物音もしない、となれば、心配にもなる。
「遅いな……」
ぐずっているのだろうか。
春名はソファから腰を上げ、仁の部屋へと足を向けた。
ドアを開くと、誰もが暖かく瞳を細めたくなるような光景が、あった。
どっちもまだ子供なのだ。
二人は仲良く一つのベッドで眠っていた。
春名はそっと毛布を掛け直し、その部屋を後にした。
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