可不可 §ボーダーライン・シンドローム§ サイコサスペンス

竹比古

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Karte.2 超心理学の可不可-硝子

超心理学の可不可-硝子 22

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「この前の続きを教えてあげるよ」
 シャツのボタンを外しながら、仁は言った。
「この前……?」
「ああ。舌の使い方、感じる部分――。あんな、ただむやみに口に入れるだけのものじゃなくて、クス……。本当のセックスを、ね」
 と、奈摘の前へと、足を踏み出す。
 奈摘は、ハッ、と体を強ばらせた。
「怖い? 逃げてもいいよ」
 妖しい眼差しが、奈摘を捕える。
「逃げるですって?」
 奈摘は仁の言葉を睨みつけた。
「あなたが出て行けばいいのよ。私は春名先生を待ってるんだから」
 と、気丈な言葉を吐き捨てる。が、
「来ないよ」
 仁は言った。
「――え?」
「春名先生は来ないよ。君を呼び出したのは、ぼくだからね」
「何ですって……」
 思いもかけないその言葉に、奈摘は瞳を見開いた。
「バスルームで、ぼくが君をレイプしようとした、って、春名先生に言ったんだって? ぼくは、当分病院へ来なくていい、と言われたよ」
 仁は薄く瞳を細めた。
「いい気味だわ」
「クス」
 と、楽しげな笑みが、零れ落ちた。人を小馬鹿にする笑みである。
「彼が君の言うことを信じるとでも思っていたのかい? 彼がぼくに『来るな』と言ったのは、逆の意味で、だよ。ぼくが女を抱く気になんかならないことは、彼が一番よく知ってる」
 と、唇の端を持ち上げる。
「……どういう意味よ」
 奈摘は訊いた。
「ぼくはUSAにいた時から、彼と一緒に暮らしてるんだ。彼以外の奴となんか、寝る気も起こらない」
「え……?」
「ぼくは、彼とでなければ絶頂イカないんだよ。彼の巧みな舌と、長く整った指先、そして、彼自身――。彼は凄くてね。いつも気を失いそうになるくらい絶頂イカせてくれる。何度も何度も……。ぼくが若いっていったって、クス……。体がもたないくらいにね――」
「嘘よ! 春名先生はそんなことなんかしないわっ! 男の人となんか――。あなたとなんかっ!」
 奈摘は激しい口調で、怒りを打付けた。
 だが、仁は一向に動じず、
「この間のディーンスト・フライ――君が帰った後、彼は激しかったよ。君が言った言葉に嫉妬して、本当に何もなかったのか、って責め立てられて。いきなり貫かれて――。まだ濡れてもいないのにさ。酷いだろ? でも、刺激的で、ね。それだけでぼくは絶頂イキそうになったんだ。だけど彼は絶頂イカせてくれなくて、ぼくのモノを彼の長い指先はいいように弄んで、喘がせて、何度も深く貫いて……。ぼくは彼に懇願したよ。『もう絶頂イカせて欲しい』ってね。それでも彼は聞いてくれなかった。そして最後には――」
「嘘つきっ! そんなの全部嘘よ! 先生はそんなことしないっ。嘘つき! 嘘つき――――――っ!」
 奈摘は仁の言葉を否定して、喉の奥から叫びを上げた。刹那――。
 部屋の照明が、フッ、と消え落ち、辺りが闇に包まれた。照明が壊れた訳ではなく、不意に、何の前触れもなく、消えたのだ。
「……え?」
 完全な暗闇となった部屋の中、奈摘は戸惑いながら、辺りに視線を巡らせた。刹那、ガシャン――っ、と何かの砕けるような高い音が響き渡った。ガラスが割れたような破壊音だった。
「キャっ!」
 奈摘はその音にハッとして、両手で頭を抱え込んだ。
 だが、ここには壊れるものなどなかったはずではないのだろうか。
 そう思った時、部屋が急に、明るくなった。
 目の前には、背の高い人影が、光を背に受けて立っている。逆光のために、それが誰なのかは解らない。
 だが、見覚えのあるシルエットだった。


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参考文献
ナルシズム 中西信男著 講談社刊 自閉症 玉井収介著 講談社刊 異常の構造 木村敏著 講談社刊 心理テスト 岡堂 哲雄著 精神病理から見る現代思想 小林敏明著
感想 11

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