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Karte.2 超心理学の可不可-硝子
超心理学の可不可-硝子 19
しおりを挟む「どうしてって……。決まってるだろ。ぼくは男で――」
「パパと同じじゃない。あなた、お母さんとお風呂に入ったことないの?」
「――。そういう問題じゃないだろっ。――先生は?」
仁は憤りを押さえて問いかけた。
「買い物よ。私がケーキを食べたい、って言ったの」
一体、何を考えている、というのだろうか、彼女は――。考えが解らないだけでなく、まともな人間のすることでは、ない。
「とにかくぼくは――」
仁が言いかけた時だった。
「あなた、女と二人でいて何も感じないの?」
と、奈摘が、悩ましげな視線を持ち上げた。
指を伸ばし、仁の素肌を、するり、と撫でる。
仁は、触れた指先に、目を瞠った。
「私がしてあげるわ……」
淫靡な声でそう囁き、仁の素肌に、舌を、落とす。
「やめ――っ」
仁は咄嗟に身を引いた。
「クス。――怖いの?」
奈摘が皮肉な視線を持ち上げた。
楽しんでいるのだ、この状況を。
仁が、無言のままで睨みつけると、奈摘の舌が、素肌に立った。男を前にしても、動揺の破片すら、見せてはいない。官能を包み込む唇も、指先で辿る体のラインも、抵抗の破片も混じらない。
仁は、その奈摘の姿を見下ろした。
「その程度? どこで覚えたのか知らないけど、それじゃあ男は絶頂ないよ」
と、冷ややかな口調で吐き捨てる。
奈摘の面が、サッ、と凍ったた。愛撫を止め、頬をカッと紅潮させる。
「感じていないとでも言うつもり?」
と、きつい視線を持ち上げる。
「ぼくは正常な人間だから、刺激を受ければ体は反応するさ。でも、それ以上は君には無理だよ。今までの中で、一番、下手だ」
見下すような仁の言葉に、奈摘の表情が、きつく、歪んだ。
「ぼくはこれで失礼するよ」
そう言い残して、仁はバスルームを後にした。
――彼女は、危険、だ……。
夜――。
趣味のいいロー・テーブルに、ワインを置いて過ごす時間。
仁はグラスを片手に、右手のロー・ソファに腰を降ろす春名を、じっと見つめた。
「超心理学、か」
春名が呟く。
手に持つグラスを少し傾け、揺らめく波を眺めている。
「先生はどう思いますか?」
仁は訊いた。
そう考えれば、病棟でのことも、キッチンでのことも、説明がつくのだ。
「んー……。考えられないことではないと思うが。バスルームでは何も起こらなかったんだろう?」
と、さっきまでの仁の話に、問いかける。
「それはそうですけど……」
奈摘を怒らせても、バスルームのガラス戸は割れなかったのだ。
「仁くんの思い違いであって欲しいとは思うが」
「……」
「今の段階なら、病室の窓も、コーヒー・カップも割れるべくして割れた、という見方が出来る。――とにかく、バスルームのガラスが割れなくて良かった」
春名は、ホッ、と胸を撫で降ろすように、息をついた。
「でも、バスルームのガラスが割れていれば、はっきりと――」
「馬鹿なことを言うんじゃないっ!」
きつい一喝が、グラスを揺らした。
「怪我をしたらどうするんだ? 下手をすれば怪我どころか、死んでいたかも知れない惨状だ」
と、グラスを潰しかねない勢いで、言葉を打付ける。
「……。すみません」
仁は瞳を伏せて、謝った。
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