可不可 §ボーダーライン・シンドローム§ サイコサスペンス

竹比古

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Karte.2 超心理学の可不可-硝子

超心理学の可不可-硝子 17

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「く……」
 仁は手の傷に貼ったガーゼを剥ぎ取り、コーヒーを浴びた箇所の熱さに、きつく唇を噛み締めた。
「大丈夫?」
 奈摘が心配そうに、仁の様子をのぞき込む。
「……。ああ」
 仁は苦痛を堪えて言葉を返し、水道の水で手を冷やした。
 ジンジン、と火傷特有の痛みが、熱く響く。
 手だけではなく、足にもかなりの痛みがある。それでも今は、怪我をしている手の痛みの方が酷かった。
 少しして、春名が部屋から姿を見せた。
「今の音は何――」
 と、そこまで言いかけ、キッチンの惨状に目に瞠り、
「仁くんっ!」
 と、すぐに仁の元へと床を蹴った。
「どうしたんだ、仁くん?」
 それに応えたのは、奈摘だった。
「コーヒー・カップが割れて、それに驚いてポットを落としたの」
「カップが――。火傷は?」
 春名の面が、蒼白に変わった。
「大丈夫です。急に割れたから驚いただけで……。それほど浴びた訳じゃないですから」
 仁は、笑みを見せて、受け応えた。
「急に? 落としたんじゃないのか?」
 落としたのなら、仁もこれほど驚きはしなかっただろう。本当に突然、何の前触れもなく、砕け散ったのだ。
「――。きっと、カップにヒビが入っていたんですよ。そこに熱いコーヒーを入れたから……」
 仁は、考え得る原因を、口にした。
「そうか……。気をつけないと。――火傷は?」
「大丈夫です。すぐに片付けますから――」
「後でいい。早くバスルームで足を冷やして来なさい」
 春名は言った。
 コーヒーを被ったのが、冷やしている手だけではないことに気づいているのだ。――そう。春名はいつも、気づいてくれる。
「はい。――彼女にはジュースか何かを」
 仁は素直に言って、キッチンを出た。
 だが、疑問が消えた訳では、ない。どう考えてもおかしかった。カップにはヒビなど入っていなかったし、もしヒビが入っていたとしても、あんな割れ方をするはずがない。まるで、石を投げ付けたように、突然、何の前触れもなく砕け散って――。
 バスルームへと向かう中、仁は厳しく表情を変えた。
 コーヒーを浴びた箇所からは、熱い痛みが、速い鼓動を送っている。
 病棟での傷、今日の火傷、と災難続きで、このところ、ろくな目に遭っていない。しかも、その二度ともが、奈摘が側にいる時なのだ。
 この災難は、果たして偶然なのだろうか。
 それとも……。


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参考文献
ナルシズム 中西信男著 講談社刊 自閉症 玉井収介著 講談社刊 異常の構造 木村敏著 講談社刊 心理テスト 岡堂 哲雄著 精神病理から見る現代思想 小林敏明著
感想 11

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