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Karte.2 超心理学の可不可-硝子

超心理学の可不可-硝子 13

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「……。そう。素敵なお父さんだったんだろうね」
 春名は訊いた。
 奈摘の表情が、パっ、と明るく輝いた。
「先生みたいに、すっごく背が高かったの。だから、先生を見上げて話をしていると、パパと話をしているみたいでとても嬉しいのっ」
 子供らしい笑みが、広がった。
『背』が問題なら、確かに仁では身長が足りない。まだ成長途上であり、それでなくても小柄な方なのだ。
 その仁へと視線を向け、
「すぐに行くから、先に戻ってさっきの件を検討しておいてくれ」
 と、春名はファイルを手渡した。
「――。解りました、春名先生」
 睨みつけるような視線が突き刺さる。
 溜息をつくしかないではないか。
 まるで、二人の子持ちになったような気分だった。
 春名にしてみれば、自分こそ一番の被害者である。
「ねェ、春名先生……」
「ん?」
「あの人、私のことが嫌いみたい」
 仁の背中を見つめて、奈摘が言った。
「いや、そんなことは……」
 ――ピンポーン、正解である。
 と、口に出せないのが、辛いところだ。
「私、先生とずっと一緒にいたいナ」
「……。相談相手くらいなら――」
 そう言いかけた時、突然、ガラスの割れる高い音が、院内に大きく響き渡った。
 緊張をもたらす派手な音が、きらめく破片を飛び散らせる。
「え?」
 何が起こった、というのだろうか。
 春名は、音の方へと視線を向けた。
 見れば、病室のドアに付いている磨りガラスの窓が、見事に砕けて飛び散っている。その側には、仁が膝を折って倒れていた。
 春名はその状況に、目を瞠った。
「仁くん――っ!」
 と、奈摘の手を振り払い、急いで仁の元へと駆けつける。
「キャっ。センセ――っ!」
 奈摘の声は、春名の耳には届かなかった。
「仁くんっ! 大丈夫か? 怪我は? ――見せてみなさい」
 と、仁の傍らに膝をつき、伏せている面を持ち上げる。
 額と頬に、砕けたガラスで負ったらしい傷がついていた。咄嗟に顔をかばったらしい手にも、赤い血の筋が滲んでいる。
「大丈夫です。少し驚いて倒れただけで」
 仁はしっかりとした声で、立ち上がった。
「目を開けるんじゃない。血が入る」
 春名は、ポケットの中からハンカチを取り出し、仁の額と頬に滲む血を吸い取らせた。
「おいで。ガラスは危険だ。すぐに検査した方がいい」
「大袈裟ですよ、このくらいで」
「ガラスで瞳に傷でもついていたらどうするんだ? 気づかずに方っておいたら失明するかも知れない」
「大丈夫ですよ。反射神経はいいですから、そんなことは――」
「来なさい。検査を受けるんだ」
 春名は、仁の肩を抱き抱え、半ば強引に促した。
 仁もそれには逆らわなかった。
 その場に一人残された奈摘の視線は、じっと二人の背中を見つめていた……。


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