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Karte.13 籠の中の可不可―夜明

籠の中の可不可―夜明 44

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「オレたちは、おまえと違って、正真正銘の化け物だよ」
 イサクの言葉は、鼻で笑うようなものだったが、どこか悲し気で、やり切れなさを感じるものでも、あった。まるで、そう呼ばれることが当たり前として育ってきたかのように。
 彼は今、そんな風に過ごしてきた里へと、仁や春名、沼尾を連れて行こうとしているのだ。今まで隠されて来た里へ――。禁忌の森の中にある鳥籠へ――。
 もしかすると彼は――いや、彼ら里の人々は、ひっそりと暮らすことをやめようとしているのではないだろうか。もうそんな生活に甘んじてはいない、と――。
 それなら、彼らは……。
「まさか、君たちは『正真正銘の化け物』として、村の人たちを――」
「さあ、ここからはあいつに交代だ。山を越えたから、もうすぐ里が見えてくる」
 仁の言葉を遮るように、イサクはことさら大きな声で言って、仁を背負う手を外した。
「じゃあ、僕が」
 沼尾が前に出て、仁に背を出す。
 再び、少年の背とは違う大きな背に負われて、仁は前を行くイサクの背中をじっと見つめた。
 彼は、まだ成長途上の小さな背中に、どれほどの重みを背負おうというのだろうか。
 仁に背負えない分は、春名が背負ってくれる。
 春名が押し潰されそうなときは、仁が支える。
 そうやって、一人では背負えないものを補いながら、互いに依存し合って生きて来た。
 それなら彼は――イサクには、一体誰が……。
「――どうしたんだ、仁くん?」
 沼尾の横に並んで、春名が訊く。
 ――ほら。
 いつも春名はこうして気付いてくれる。
 イサクには、そんな相手はいないのだろうか……。
「先生、僕たちで彼を止めないと……」
「止める? ――彼から何を聞いたんだ?」
「何も……。彼は何も話してくれません。だから、とても恐ろしいことが起こるような気がします」
「解った。里へ着けば何か解るかも知れない」
 解る――だろう。里へ着けば、彼らが何故、森の中にずっと閉じ込められていたのか、その理由が。

 籠の中の鳥は
 いついつ出やる

 それが今だというのだろうか。
 ついに、彼らが籠から解放される『夜明けの晩』が来たのだと――。
「――僕がここへ来たせいで、何かの均衡が狂い始めたんだな、きっと」
「あ、それは間違いないです」
 沼尾の言葉に、仁がダメ押しすると、
「普通、そう思っていても、『あなたのせいじゃありません』とか言ったり……」
 と、落ち込んでしまう。
「落ち葉に隠されていたものが、新しい風に吹かれることで姿を現したんですよ」
 多分、そうなのだ。沼尾が『かごめかごめ』の謎を探るためにあの村を訪ね、森へ足を運んだ時から、あそこに風が吹き始めた。
 村にとどまって森を調べようとした沼尾に、宿を貸してくれる者は誰もいなかったが、無住職寺を借りようと動き始めた時に、色々なモノが動き出した。別の土地で暮らしていた無住職寺の相続人は、沼尾が調べようとしているものがあの森だとは知らず、『かごめかごめ』の童謡について、とだけ聞かされていたに違いない。
 そして、沼尾が再び村へ訪れ、寺に住み始める前に、まず、小春の父親が殺されてしまった。恐らく、沼尾を森へ入れまいとして何か画策しようとしたのだろう。そこを里の人間に見咎められ、以前にイサクを手にかけた一人であることを知られて殺された。そう考えれば、一連の出来事が全て噛み合う。
 とすると――。
「夜明けの晩に起こるのは……」

 鶴と亀がすべった
 後ろの正面だあれ?


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