334 / 350
Karte.13 籠の中の可不可―夜明
籠の中の可不可―夜明 42
しおりを挟む「――あいつら? ――ずっと大人しくしてたって、どういうこと?」
思いつめるようなイサクの呟きに、仁は訊いた。
「オレたちはもう籠の中に閉じ込められたままではいない。ハルちゃんが皆を開放する。そういう約束だったから――」
かごめかごめ
籠の中の鳥は
いついつ出やる
――ハルちゃんが皆を開放する。
それは一体どういう意味なのだろうか。
第一、小春は――。
「でも、小春ちゃんは捕まってるんじゃ――」
「来るのか、来ないのか、どっちなんだ?」
苛立つように、イサクが言った。
ここで全てを話してくれるつもりはないのだろう。
「……。わかった。――いいですよね、先生?」
仁が春名を振り返ると、
「ああ」
「もちろん、僕もだ」
と、沼尾が言った。
出来れば自ら巻き込まれに来ずに、一人で帰って欲しかったのだが……もともとは沼尾が突っ込んだ首なのだから、ここで引き下がることはしないだろう。
仁が春名の背に乗ると、イサクが雑木林へ踏み出した。
行く道々でもっと話が出来ないか、とも思ったが、道なき道を進む中、春名の集中力を削いで、仁の体重以上の負担をかけることは出来なかった。イサクは、出来るだけ歩きやすい場所を選んで通ってくれているのだろうが、普段こんなところを歩かない都会の人間にとっては、少しも気を抜ける道ではなかった。
「途中で僕が代わろう」
いくら小柄で軽いとは言っても、十七、八歳の少年の体重である。おまけにこの道なき道では、疲れ方も半端ではないだろう。それを見越して、沼尾が言った。
「――ありがたい。仁くんも大きくなったからな」
「やっと気づいたんですか」
クックッ――、と、こんな時なのに、笑いが零れた。
イサクが不思議そうに二人を見ているのを感じた。彼が後ろを振り返ったかどうかなど、足元に気をつけながら歩いていた二人には、確かめてみることも出来なかったというのに。
「――じゃあ、オレはこの先の登りで代わる」
イサクが言った。
「登り――!」
「山の裾を横切るだけだ。頂上まで登る訳じゃない」
「だが、大丈夫なのか? 女の子よりは重いぞ」
「当たり前です」
は、仁。
「オレの方がずっと慣れているし、力もある」
「……」
そう言われればそんな気がするのだから、春名もすっかりおじさんになってしまったのかも知れない。――いや、もちろん、体力面だけだが。普段、椅子に腰かけていることが多いのだから、森の中を駆けまわっている十代の少年と比べられても分が悪い。
それからは、もう森を突き進むことに集中した。
これだけ奥へ入っても、里の人々の気配はしなかった。皆が皆、こうしてイサクのように森の中を歩き回っているのではなく、里で静かに暮らしているのかも知れない。
――オレたちはずっと大人しくして来たのに……。
あのイサクの言葉は、どういう意味だったのだろうか……。
0
参考文献
ナルシズム 中西信男著 講談社刊 自閉症 玉井収介著 講談社刊 異常の構造 木村敏著 講談社刊 心理テスト 岡堂 哲雄著 精神病理から見る現代思想 小林敏明著
ナルシズム 中西信男著 講談社刊 自閉症 玉井収介著 講談社刊 異常の構造 木村敏著 講談社刊 心理テスト 岡堂 哲雄著 精神病理から見る現代思想 小林敏明著
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説


ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


フリー台詞・台本集
小夜時雨
ライト文芸
フリーの台詞や台本を置いています。ご自由にお使いください。
人称を変えたり、語尾を変えるなどOKです。
題名の横に、構成人数や男女といった表示がありますが、一人二役でも、男二人、女二人、など好きなように組み合わせてもらっても構いません。
また、許可を取らなくても構いませんが、動画にしたり、配信した場合は聴きに行ってみたいので、教えてもらえるとすごく嬉しいです!また、使用する際はリンクを貼ってください。
※二次配布や自作発言は禁止ですのでお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる