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Karte.13 籠の中の可不可―夜明
籠の中の可不可―夜明 34
しおりを挟む「どうだろう? 君たちの里には、子供たちが学ぶ場所――学校や、電気、ガス、水道なんかは整っているのかな?」
春名が訊くと、
「そんなことが訊きたかったんですか?」
無表情に、イサクは言った。
「もちろんだよ。君たちが持つ当然の権利だからね」
「はい、お茶です。笙子先生お気に入りの、お取り寄せ霧島煎茶――」
「これ、おいしいのよ、サクちゃん。飲んでみて」
「……」
どうも、イサクが思っていた展開とは違うようで……。
淹れたてのお茶に口をつけると、
「……渋い」
「クスクス! サクちゃん、子供みたい!」
顔を顰めるイサクに、小春が楽しそうに笑みを零す。
きっと、二人の間で、こんな日常のやり取りは初めてのことだったのだろう。――いや、村の大人たちに禁じられて来た。
「初めて飲んだからだよ。――ハルちゃんは、本当にいつもこんなのを飲んでるの?」
やっと、普通の十代の少年らしい言葉と顔つきになって、イサクが訊く。
「こんな上等なお茶、ここで初めて飲んだわ。いつもお番茶か麦茶だもの。――サクちゃんは?」
「……。好きなのは、山葡萄のジュース」
「わあっ、おいしそう! ――おうちで作るの?」
「お酒にもするよ」
「なんでも出来るのね!」
二人に任せておけば、里の暮らしの様子が自然と伝わって来るようだった。
本来、二人もこうして他愛のないおしゃべりを、誰の目を憚ることなくする権利を持っているのだから。そんな当たり前の権利を思い出して、村と里が変わって行ってくれれば、それが一番いいのだろうが……。
「この服も手作り?」
「ワタを育ててるんだ。種からは油も取れるし、麻も服や縄になる」
――麻……。
二人の話を聞きながら、春名はそれがこの国の規制に引っ掛かるものでなければいいが、と考えていた。
大麻草は、花や葉に向精神作用があるため、日本では麻薬取締法によって規制されている。
だが、もしかすると、その里とは、古くから、しめ縄や神事のお祓いのための大麻を育てて来た処だったのかも知れない。――いや、それは建前で、戦後の規制の後も、秘密裏に大麻栽培が行われて来た里なのかも……。
だとすれば、里を隠そうとするのは、今も大規模な大麻の栽培が行われているから……?
もしかすると、イサクが殺されたという記憶も、熊の獣害も、大麻による幻覚作用が原因で視えたものなのかも知れない。
「サクちゃんたちも、村の学校には入れれば、もっと楽しかったのに!」
里での生活の話を聞きながら、小さい頃からこうして交流できていれば、というように、小春が言った。
「……オレたちは、静かに暮らしていられるだけでよかったんだ。それなのに……」
「サクちゃん……」
「静かに暮らしていられないような何かがあったのかい?」
イサクの言葉の引っ掛かりに、春名は訊いた。
「オレが壊したんだ」
握りしめるこぶしが、過去の過ちを痛々しく語った。
同じ年頃の子供たちが遊んでいるのを、森の中から眺めていることしか出来なかった幼い頃――。一人の少女が、森から出ておいでよ、と言ってくれた。そして、禁忌を知りながら、未知の世界へ踏み出した、あの日……。
「それは君たちが持つ当然の権利だ。誰も君たちを閉じ込めておくことなど出来ない」
「……。バカだな。オレたちみんながそう思ったら、こんな村なんか――」
イサクが、言いかけた言葉を不意に止めた。
「どうかしたのか?」
「――外から煙の匂いがする」
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