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Karte.13 籠の中の可不可―夜明
籠の中の可不可―夜明 23
しおりを挟む小春にはすぐに追いつけたが、早くに森に出かけた沼尾の姿を見つけることは困難だった。
それに――。
さっきから、誰かに見られているような気がして、落ち着かない。
本来なら、そんな目に見えないものを感じ取る六番目の能力は仁の力だが、春名は確かに感じていたのだ。冷気が漂うような寒気と共に。
そして、森の中は、すでにどこを見渡しても同じ景色で、自分がどの方向から来たのかも判らなくなってしまいそうだった。真っすぐに行ける道がある訳でもなく、木を避けて少しずつ斜めにズレながら歩いて来た感覚がある。その感覚を信じるなら、帰りはそのズレを修正する方向へ向かえばいいはずなのだが……。沼尾も方向感覚を失って、森の中で迷子になっているのかも知れない。
「一旦戻って、森に詳しい人に頼もう」
共に森を進む小春に、春名は言った。
だが――、
「いないわ」
「え?」
「村の中に、この森に詳しい人なんていないわ」
小春は言った。
「でも、この先には里があるんだろう? 里の人たちと仲が悪いとはいえ、そこまでの道のりくらいは――」
「黙って! 気づかれたら、殺されるわ」
「――殺される?」
「お願い、静かにして」
「……」
彼女は何か知っているのだ。そして、それを春名に黙っている。
ボサボサの頭で、汚い服を着続けて狂気を装ってまで、彼女は何をしようとしているのだろうか。
そもそも、余所から来た沼尾が間借りしている寺へ姿を見せた理由は……。
小春の言う通り、森の中を黙って進み、春名は考えを巡らせた。
彼女は沼尾に用があったのだろうか。――いや、それなら、狂気を装ったまま、寺に居座り続ける必要はないはずである。沼尾に用件を話し、その用を済ませればいいのだから。
何より、沼尾は彼女がいたせいで寺を離れて森を調べることも侭ならず、今朝、やっと嬉々と籠目の森へ出かけて行ったのだから――。いや、それが目的だったのだ。沼尾を森へ行かせることではなく、自分が寺に居座ることで、沼尾が彼女を放って出歩いたり出来なくすることが……。事実、沼尾はどうにも出来ず、笙子に小春の件を託そうと、手紙を書いて寄越したのだから。
そしてそれは小春には誤算だったに違いない。春名と仁という部外者が二人も増えて、沼尾は小春を二人に任せて、森へと出かけてしまったのだから。
だから、小春は、沼尾がいないことを知って、あれほど慌てて森へ走り出したのだ。
なら、その森にあるものは……。
不意に、小春が足を止めた。
春名にはその理由は解らなかったが、もしかしたら、さっきから感じている視線が関係しているのではないか、という気がしていた。小春もその視線を感じていたのだと――。
「……サクちゃん?」
前方に立つ古木を見つめながら、小春が言った。
――サクちゃん?
春名は、その名前に眉を寄せた。
サクちゃん――イサクと言ったか。確かその少年は、殺されたはずではなかったのだろうか? 小春自身がそう言っていたはずだった。
古木の陰から、すらりとしたきれいな少年が姿を見せた。そしてそれは、春名には見覚えのある少年だった。
「君は、バスの事故の時に、僕を仁くんの処へ連れて行ってくれた――」
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