My Doctor

west forest

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第1章:始まり

1.最悪な出会い

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「行ってきます…」

…返事はない。いつものことだ。
もう慣れた。

わたしの名前は、篠崎 奈々。高校1年生。
家族のみんなはわたしに興味を持ってない。愛情を持ってない。

でも別に辛くなんかない。意地を張ってるわけじゃない…友達もいるし…それにもう、私は健康な体を手に入れたんだ…。



キーンコーンカーンコーン
1時間目。朝から体育。
(憂鬱だなぁ…)

わたしは、生まれた時から心臓が弱かったらしく、中学生の途中までは病院から一歩も外にでたことがなかった。でも、手術を受けてリハビリして、頑張ったおかげでいまのわたしがある。

それでも体育はときどき怖くなる。また倒れたらどうしよう…またあそこに戻るの…?
嫌だよ……


授業はバスケ。楽しくてつい調子に乗ってた。そうだ!もう私は元気なんだ!

「ゲホッ」

え…?

「ゲホッ、ゲホッ」

「大丈夫?」友達のさくらだ。

「うんだいじょぶ!ちょっとむせちゃっただけ!」

そうそう。むせちゃっただけ…
ちょっと違和感を覚えたけどすぐ治るだろうと放っておいた。



「…篠崎さん!篠崎さん!聞いてる?」

あ、いけないいけない。ぼーっとしてた。

「すみません。先生。なんですか?」 

「大丈夫?笑あのね、篠崎さんこの間休んでて健康診断、受けてないでしょ?
それでね、昼休みに保健室に来て欲しいって、斎藤先生が」
斎藤先生…

今年から保健室の先生の産休代わりに来た先生だ。
斎藤先生はなんでも普段は病院に勤めている普通の医者らしい…

(医者…最悪だ…こんなことなら休まなきゃよかった…)

「あ、はい!わかりました。」

そして昼休み。わたしはさらさら行く気なんてなかった。保健室なんか大嫌いだ。
医者なんか大嫌いだ。

それにさっきから頭がぼーっとする。こんな状態で検査されたらたまったもんじゃない。


そんなこんなで下校時刻。
なーんだ、全然ばれないじゃん。よかったー
緊張してばかみたい…


校門を出ようとしたそのとき。

「おい」

手をぐいっと引っ張られた。

(え…?)

なに。怖い。
振り返るとそこには斎藤先生…

「あ…。」

「なぜ昼休みこなかった。
逃げられるとでと思ったのか。来い!」

(うわぁ…めちゃくちゃ怒ってる)


ガラガラッ!ピシャッ!
私は無理やり保健室までつれてこられた。

「そこに座れ。」

診察用の丸椅子に座るよう促す。

「なぜ昼休み来なかった?」

(うっ…なんだよ、関係ないじゃん。
別に死ぬわけじゃないんだし…ほっといてくれればいーのに。)

「忘れてました…。」

「嘘つくな。」

(ばれた。)

「関係ないじゃないですか。ほっといてくださいよ。」

保健室にいるのが嫌すぎて、そのまま走って帰ろうとした。

ガシッ。また腕を掴まれた。

(いや…)

過去の記憶が蘇る…。
腕を引っ張られ…頬を叩かれ…やめてやめてと懇願する私…。

「や、やめてください!
さわらないで!」

「ではなぜ逃げる?」

「…。」

「なにを怖がっている?」

「…。」

「俺はお前に危害を加えるつもりはない。
ただ話を聞こうと思っただけだ。
お前は一体…なにに怯えてる。」

「…先生には関係ない。」

なんでこんなに食い込んでくるんだろう。
うざい。
なんなんだこいつ…どうせだれも信用できない。だれも信用してくれない。
もう限界だ。これ以上、ここにいたくない。

「…今日はもう、帰らせてください。」

「分かった。その代わりちょっと診察させろ。」

「は…?」

なに言ってんのこいつ。無理にきまってんじゃん。ふざけないでよ。

「ちょっと聴診するだけだ」
そう言って近づいてくる。

くそっ、こんな時に頭が痛くなってきた。
抵抗しなきゃ、診られちゃだめなんだ…

「や!やめて!
…ゲホゲホ…」
やばい。喘息が…

「もう帰らせて…!ゲホッ!」
ああ…。くらくらする。

「落ち着け。
ちょっと診たら帰っていいから。」

くそっ。なんて男だ。でもここで引き下がるわけにはいかない。

「ヒュー…ヒュー…」
なにこの音…?私の呼吸か…!だめ、だめだめこんなところで発作が起きたらばれちゃうよ…

深呼吸して立て直そうとするけど、
「ゲホゲホゲホッ…ヒュー」
やばい。ばれる。

「大丈夫か?お前…喘息もちか??」

「ち、ちが…ゲッホ…」

「もういい。わかった。
俺は医者だ。お前に拒否権はない。」
そう言うと、わたしの額を触り、首筋を確認して、勝手に診察を始めた。

「や、やめてよ!ヒュー…ヒュー」

今までばれないように、必死に我慢してきたのに…もう戻りたくないから…なんでこんな乱暴な男に…全部壊されなきゃいけないの…

「完全なる喘息の発作だな…」
そう言ったのを境にわたしの何かが変わった。

「もう!ゲホッ…ほっといてよ!ヒュー…
グスッ…ゴホッ…ハァハァ…ゲホゲホッ…」

ああ。涙が止まらない。恥ずかしい。情けない。過去の自分に申し訳ない。

「悪かった。落ち着け、ゆっくり深呼吸な。」
「吸って、吐いて、吸って…」

そう言いながら吸引器を当てられ、わたしの喘息がおさまった。

「フゥ…ハァ…」

「おさまったな。」

ポタポタ…
こんどは涙が止まらない。

そうだ、こんな男殺してしまおう。
わたしは先生を睨んで手を振り上げる。バシッ…!叩こうとしたが簡単に止められてしまった。挙げ句の果てに額に手が伸びてくる。

「熱、上がったかな…」
「体温、測れるか」

そう言ってわたしに体温計を渡してくる。

「いや。かえる。これ以上わたしに関わらないで。」

「はぁ。」

ため息をつくと無理やり脇の中に体温計を押し込み、腕を押さえられた。
「なっ!なにするの!やめて!やめろよ!
いい加減にしてよ!」

抵抗するが、離してくれない。
…力強いよ…

「いい加減にするのはお前だ!
そんなに逃げてどうする?そうやっていつも我慢してきたのか?怖がってちゃなにも終わらない。いいから言うことをきけ!
俺は医者だ!俺を信じろ。」

「嘘!うそうそ!わたしはだれも信じない!信じないし信じてもらえない!」

はっ…。なんてこと言ったんだろう。最悪だ。

「今のは…ち、ちがう「おれはお前を信じる。だからお前はおれを信じろ。おれはそこらの医者と違う。」
言葉を遮られた。


「グスッ…ヒッ…」

「ゆっくりでいい。ゆっくり克服していけば。とりあえずなにが怖い?はなせ。」

「病院…医者…大人の人…友達…家族…
みんな怖い…嫌だ…」
はっ…。私はこの男になにを言ってるんだろう…。ばかみたい

「病院には絶対つれていかないで!
あと…家の人にも絶対言わないで…!」

「分かった。守る。そのかわり、お前も具合が悪かったらすぐおれのところに来ると約束しろ。」

コクン。わたしはただうなずくことしか出来なかった。                                                         

「じゃあ、今日はもう帰れ」

「はい…。」

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