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66.警告と反撃
しおりを挟む流石に、最近のエリアスの様子には思うところがあった。けれど、それよりもクレアにとって重要なことがあった。
最近、温室への放火や窓に石を投げつけるなどの行為が起きていた。
それは、アレーディアが配置している衛兵が捕まえているが、一部はこっそりと逃されていた。どうやら、位の高い貴族の手のものであるらしいと、どこか冷たさを滲ませた声でネーロは説明した。
「まぁ、身の程を解らせてやろう……って考えてるんでしょーけど、普通に犯罪っス。ここ一応、王領だし」
「後ろに誰がついてるかわかれば手出ししないはずだけどな」
考え込むように言うリヒトの膝の上で、シャルロッテはニコニコと紙に何かの図面を書いていた。リヒト的には「後ろにマーリンのいる女に手出しするとか命が惜しくないのか?」という気持ちでいっぱいだ。そんなもんに手を出した暁には国が滅ぶ可能性だってある。意図的にクレアがマーリンの弟子だという噂は流されているし、知らなかったなどとは通じないだろう。容赦なく災害のような魔法が振るわれるのは間違いない。
「うん。師は馬鹿にされるのがなによりも嫌いだから、不本意だが私が相手をきちんとボロキレになるくらいまで痛めつけなければ暴れてしまうな」
仕方ないな、とクレアは眉を下げた。クレアはやりたくないからやらないだけで、同じくらい大暴れすることだってできる。とはいえ、今回不本意ながら「やるかぁ……」という気分になっているのはやらなかった場合に師が暴れ回るのを察しているからだ。そうなれば確実に被害が増える。それは良くない。
「身分が云々というのなら、とりあえず跳ね返しの魔法で様子見するか」
ネーロに報告を頼むと、何か釈然としないという顔で彼は頷いた。「そんなことで仕返しになるのか」という顔である。けれど、兄の膝の上のシャルロッテは知っている。結末を知っていてやった行いの「返し」がどういうことになり得るのか。
「シャルロッテ、その手のものは今は持って帰るように」
クレアにしては少し厳しい声が向けられて、シャルロッテは少しだけ困った顔で頷いた。お人好しなクレアであれば幼い容姿の自分のことは警戒しないだろうと思っていた。実際に、勇者一行の時は何も言ってこなかったし、呪詛のことなんて何も解らないという様子だった。
今回はその図面を持って帰ったシャルロッテを見送って、クレアは溜息を吐いた。
最初は気が付かなかったが、黒い靄が時々シャルロッテの周りに見えることに気が付いてからは早かった。対価に捧げたものであれば戻らないのも納得がいく。これ以上、シャルロッテが何かしないようにする他ないだろう。危ういな、と思ってリヒトには一応あるものを渡しておいた。
一息ついて、杖を顕現させるとそれを持ち上げて家全体に魔力を行き渡らせる。青い光がキラキラと舞う様子はどこか幻想的だ。杖がコツンと大地に降ろされる。水滴の落ちた水面のように術式は広がっていき、そして完成と同時に光は消えた。
反射の魔法は決して優しいものではない。火がつけられたらそれが跳ね返って火傷するとかそんな可愛い魔法をクレアは習っていなかった。魔導師の名にかけて、やられたらやり返せと稀代の魔導師に教え込まれているクレアの魔法は世間一般より過激なことが稀にある。それはマーリンが彼女の比較的おとなしい性格を案じて、「これくらい普通だよ」と教えた魔法だったりする。それが普通の魔法ではなく、マーリンが考案したとびっきりヤバい魔法であることが判明するのは、みんなが思うよりも早かった。
クレアだって、捕まったその次の晩に懲りずにやらかすなんて思わなかったのだ。だから、とある侯爵邸が燃えたと知った時、頭が痛いというように額を押さえた。
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