上 下
64 / 90

64.訪問者

しおりを挟む



「クレア、あなたの髪はどうして艶々なの?」

「髪の洗剤とオイルを変えたからだろうか」


 リルローズに頼まれてシャンプーなどを作っていたクレアはルナマリアにそう返答する。たまたま仕留めたという鳥をお裾分けし、ついでにここで食べて帰る気満々のルナマリアはクレアの髪に着目すると、すぐに問いかけてきたのである。後ろからひょっこりと顔を出すシャルロッテも興味深そうにクロエの髪を見ていた。


「洗剤……。間違っちゃいねぇが、せめて洗髪剤とかにしてくれ」

「うん。わかった」


 興味がある様子のルナマリアにいくつか取り出して説明する。ふわりと香る花の香りが華やかだ。
 それにしても、クレアがこのようなものを作るのは珍しいとその顔をじっと見つめた。


「なんだ。君たちまで、私が女性らしいものを作るのは意外だと言うのか?」

「そうね」

「実際、ご主人がこういうのに手ェ出したのはリルローズのお願いが理由だからな」


 リルローズが乾燥で肌が荒れる、良いシャンプーの匂いが気になるなどで困っていたからと作ったものだ。そこから女王も気に入り、レディアから「商品の登録をしても構わないか?」と言われて春くらいからはレディアの商会で売られることになった。そのうちの何割かはクレアに使用領として入ってくることになる。うまくできた制度だ、と感心すると昔現れた異世界人が伝えた制度であると言われた。


「そういえば、師が面白そうとか言ってえげつない臭いだけどすごく髪がサラサラになる石けんを作った」

「やめろ。思い出させるな」


 効能は良いんだけど、と呟きながら紫色の液体が入った瓶を振る。
 マーリンは大体のことはできるけれど、クレアとは違って戦いに特化していた。クレアの前では人々の生活に根差した魔法を考えていたから、クレアは「師はそういうタイプなんだな」と思っているだけで、基本的には「興味があるし結果は出るけれど、何かしら問題点が出る」というある種彼らしい問題が出ているのであった。


「いくらなの?」

「今原材料とかから割り出してもらっているところだ。身内用だから採算度外視で作っているからな」


 これであの愛らしいお姫様が元気に顔を出すのであれば、それは嬉しいことだというのが作った理由だ。昔母にあげるために師と相談しながら作った美容液等が役に立った。
 それにしても、と今更ながらに首を傾げる。


(師はなんで女性への贈り物関連に詳しかったのだろうな。まぁ、あの人顔は良いらしいし、元は貴族だと聞いたことがある。生まれが貴族ならばおかしくないのか?)


 それにしては貴族連中を嫌いすぎるな、なんて思いながらお試し用のそれらを用意すると、ルナマリアとシャルロッテがはしゃぐ。


「良かったら正式に販売になった時に買うわ」

「ありがとう」


 それはそれとして、ルナマリアとシャルロッテはちゃんと晩御飯を食べて帰ったし、クレアからお土産を持たされた。リヒトが翌日、お礼だと言ってマンダという柑橘類の実を持ってきた。ユウタが「異世界産みかん…!!」とキラキラした目で見ていたので一個持って帰らせた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

余命1年の侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
余命を宣告されたその日に、主人に離婚を言い渡されました

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

悪役令嬢は処刑されました

菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

処理中です...