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64.訪問者
しおりを挟む「クレア、あなたの髪はどうして艶々なの?」
「髪の洗剤とオイルを変えたからだろうか」
リルローズに頼まれてシャンプーなどを作っていたクレアはルナマリアにそう返答する。たまたま仕留めたという鳥をお裾分けし、ついでにここで食べて帰る気満々のルナマリアはクレアの髪に着目すると、すぐに問いかけてきたのである。後ろからひょっこりと顔を出すシャルロッテも興味深そうにクロエの髪を見ていた。
「洗剤……。間違っちゃいねぇが、せめて洗髪剤とかにしてくれ」
「うん。わかった」
興味がある様子のルナマリアにいくつか取り出して説明する。ふわりと香る花の香りが華やかだ。
それにしても、クレアがこのようなものを作るのは珍しいとその顔をじっと見つめた。
「なんだ。君たちまで、私が女性らしいものを作るのは意外だと言うのか?」
「そうね」
「実際、ご主人がこういうのに手ェ出したのはリルローズのお願いが理由だからな」
リルローズが乾燥で肌が荒れる、良いシャンプーの匂いが気になるなどで困っていたからと作ったものだ。そこから女王も気に入り、レディアから「商品の登録をしても構わないか?」と言われて春くらいからはレディアの商会で売られることになった。そのうちの何割かはクレアに使用領として入ってくることになる。うまくできた制度だ、と感心すると昔現れた異世界人が伝えた制度であると言われた。
「そういえば、師が面白そうとか言ってえげつない臭いだけどすごく髪がサラサラになる石けんを作った」
「やめろ。思い出させるな」
効能は良いんだけど、と呟きながら紫色の液体が入った瓶を振る。
マーリンは大体のことはできるけれど、クレアとは違って戦いに特化していた。クレアの前では人々の生活に根差した魔法を考えていたから、クレアは「師はそういうタイプなんだな」と思っているだけで、基本的には「興味があるし結果は出るけれど、何かしら問題点が出る」というある種彼らしい問題が出ているのであった。
「いくらなの?」
「今原材料とかから割り出してもらっているところだ。身内用だから採算度外視で作っているからな」
これであの愛らしいお姫様が元気に顔を出すのであれば、それは嬉しいことだというのが作った理由だ。昔母にあげるために師と相談しながら作った美容液等が役に立った。
それにしても、と今更ながらに首を傾げる。
(師はなんで女性への贈り物関連に詳しかったのだろうな。まぁ、あの人顔は良いらしいし、元は貴族だと聞いたことがある。生まれが貴族ならばおかしくないのか?)
それにしては貴族連中を嫌いすぎるな、なんて思いながらお試し用のそれらを用意すると、ルナマリアとシャルロッテがはしゃぐ。
「良かったら正式に販売になった時に買うわ」
「ありがとう」
それはそれとして、ルナマリアとシャルロッテはちゃんと晩御飯を食べて帰ったし、クレアからお土産を持たされた。リヒトが翌日、お礼だと言ってマンダという柑橘類の実を持ってきた。ユウタが「異世界産みかん…!!」とキラキラした目で見ていたので一個持って帰らせた。
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