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51.青い鳥が運ぶもの

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 にこにこと機嫌良さげなエルフの少女に、付き従う侍女は「姫様」と呼びかけた。


「話しかけるな、と言ったはずよ」


 先程までの様子とは一変して底冷えするような声で彼女はそう告げた。けれど、引き下がるわけにはいかないとでも言うように侍女は「そうは参りません」とにこやかに彼女に返す。


「今日こそ、陛下のお召しに従ってもらわなければ」


 今までコルツ国王の決して傷をつけてはならないという命令のせいで、鬱屈を抱えながらも美しいだけが取り柄の蛮族だと蔑む女に丁寧に接してきたが、さすがに待ちきれなくなった王は隷属の首輪での調教を認めた。どこかうっとりとした表情で作動させようとしたが、目の前の女が苦しむ様子はない。それを見ながら、女……ルナマリア・セレネ・フィオーレは「ああ、これ?」などと言ってその首輪を


「ふふ、親切な小鳥さんが解除してくださったの」


 笑いながらそう言った彼女の目に籠るのは火のようなナニカだった。指先一つで拘束された侍女はガシャン、と何かがはまる音を聞いた。


「私などよりもあなたの方が似合っていてよ」


 愉快そうにそう言って、彼女は窓から外を見た。そして、目的のものを見上げてそれはそれは美しく微笑んだ。


「だから扱いにはくれぐれも気をつけろと口を酸っぱくして言っていたというのにあの者らは」


 乾いた笑いを漏らしながら赤い髪の青年が煙の上がる城下町を見下ろしていた。夏の空のような青い瞳が細められる。


「殿下……ではありませんでしたな。陛下、攻め落とす準備は整っております」

「そうか。
──旗を掲げよ!」


 晴れ渡る空に高らかに青年の声が響く。深緑の生地と、その中央に勇猛なる獅子。
 来るまでの領地を平らげてきたとは思えぬほど兵たちは無傷に近い。
 コルツ王国は民を蔑ろにしすぎた。だからこそ、多少の援助をしながら進軍するだけで多くの者が道を開けた。

 青年はマーリンという魔導師に押しかけられて、予定より早く父親を引き摺り落とし、国内の掌握を急ぐハメになった。反発も大きくなりそうであったが、後ろに伝説の英雄がいるだけあってか、彼の姿を一瞬見ただけで協力的になるものが多かったし、ある少年の召喚に関わった魔法使いの多くは、マーリンの手によって二度と魔法が使えないように処理された。彼にとって、異世界人の召喚とはそれだけ許せないことであったらしい。

 しかも、当時王太子である青年がせっせと世話を焼かなかった場合、内密に始末する手筈になっていたと判明したからマーリンはものすごく怒っていた。「お前の家族を奪わなかっただけ、僕は優しいねぇ?」と穏やかに尋ねられた魔法使いは真っ赤な顔で震えていた。

 レオニール王国がまだ王国であり、戦火が上がっていないのは王太子である青年が常識ある人間だったからである。王のやらかしを自分が始末されないように立ち回って片付け、秘密裏に多くを助けた。だからこそ王であった男は、その妻であった女の数名は、王族のまま死ぬことができたのだ。
 側室腹の弟も数人始末することにはなったが、青年はそれらが国のためにならないと知っていたため屍を越えて頂点に立った。すでに殺し合ってきた間柄だ。そうしなければ冷たくなっていたのは王太子であった青年の方だった。

 赤髪に青い瞳を持つ青年の名はロルフレード・アイル・レオニール。
 レオニール王国の若き王である。
 マーリンとの盟約に則って、彼はコルツ王国を喰らう。
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