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新しい生活

デイザス地方への地方行脚

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 かおるが地方の魔道士団を見てみたいと言うものだから、宮廷魔道士団ではスケジュールを組む臨時の仕事が舞い込んで、ちょっとした忙しさだ。


「で、『お出かけであれば宮廷魔法師団所有の一番豪華な馬車で』とか、『お供を付けないとはどういうことですか?必ず2名は師団員をお付けなさいませ』とか、いちいち堅っ苦しくて」


 夕食時、食堂で麻宗あそうみなで食事をしているときにそんなことを話していると、


「それは当たり前じゃないですか。えらい身分の人は、お供も付けずに出歩くなどはしたないです」

「1人の気軽さを味わうと堅苦しいですが、それが常識です。あきらめて下さい」


 と、ミネルバとカッテリーナから口撃こうげきを受けた。


「それでなくともかおるさんは公爵夫人なのですよ。公爵本人である二郎さんにも言えますけどね」

「お二人はよく勝手に出歩いて、気にしていらっしゃらないようですけどこれからはどこへ行くにもお供くらい付けて下さいませ」


 おぉ。今度は普段の生活まで言及げんきゅうされてしまった。えらくなると、息苦しくなるなぁ。あまりえらくなった実感はないけど。


「でも、馬車で行く必要ある?キャンピングカーの方が速いし、いざとなったら中で休めるのよ」

「途中で泊まる宿屋にも泊まる理由があります。安易な考えで慣例をぶち壊さないで下さい」

「泊まる宿屋でしか得られない情報というものもあります。情報収集も貴族には必要です。馬車で行くのに賛成です」

「それに、馬車で行くことによって、お供を付けることによって給金が支払われます。人の給金を奪うような前例を作るのは反対です」

「普通なら身の回りの世話をするメイドも連れて行くことになります。それが免除されているだけでもお二人に対する譲歩じょうほだと思いますわ」


 また口撃こうげきを受けてしまった。うん、ちょっと反撃できないね。


「分ったわよ。馬車でも行くし、お供も付けるわよ。ちぇっ」


 こうしてかおるは、慣例かんれいに従った形で他の地方を見に行くことになった。



 そして、出発当日、かおるに、宮廷魔道士からお供にアヤコフ・ヒーピッヒにナターシルア・ハーバホフに、お留守番の二郎が集まっていると、


「連絡より護衛が増えているじゃない!」


 騎士団から護衛が来て、馬車が1台増えていた。


「聞いてないわよ!」

「騎士団にかおる様が公爵夫人だと伝わっていなかったのです。それを聞いて急遽きゅうきょ護衛を増やしました」

「勘弁して下さい。これ以上護衛を減らさないで下さい」

「分ったわよ。これで行きましょう」


 かおるほこおさめてこの人員で向かうことになった。




 今回は、王都から北へ向かう、馬車で4日間ほどの旅だ。

 暖かい光の中、2台の馬車は進む。

 かおるは、流れる風景をたまには見るが、その目線のほとんどは、本に向けられていた。


「いい天気ね。これだけ日が照っていると本も読みやすいわ」


 かおるはバーンクリット公爵家から魔術関係の古書を20冊ばかり馬車に持ち込んでいたのである。たまにメモを取りながら、本を読みふけるかおる



 本を読んでいる間にとうとう最初に宿泊する宿場町に到着した。

 その町で一番の宿屋に泊まったが、貴族はその日、泊まっていなかった。貴族の領主邸も遠かった。

 貴族からの情報はあきらめ、町の人間に、ここはどんなところか聞いてみた。

 特に娯楽ごらくらしい娯楽ごらくもなく、仕事に明け暮れ、細々とした生活を送っているそうな。

 同行者のアヤコフやナターシルアに地方について聞いてみる。


「まぁ、娯楽がないとかは普通ですね。と言いますか、娯楽ごらくって何ですか?貴族様だから、やっぱりダンスとかですか?」

「そういえば、王都でも、娯楽施設ごらくしせつとかも特にあるわけで無し、貴族ならダンス、貴族平民関係無しならお酒を飲みながらのおしゃべりくらいかしら?あと、この前私たちが仕掛けた花火?」

「あぁ、酒を飲みながら仲間でワイワイしゃべるのも娯楽ごらくなんですか。んー。あとはお祭りくらいしかありませんね。あと花火ですか。あのとき初めて見ました。あれはどこでやっても喜ばれますよ」

「移動の劇団員が来たり、サーカスが来たりするわけでもなさそうね」

「劇団?サーカス?何ですか?それ?」

「そっかー。単語も分らないくらいこの国って娯楽ごらく、無いのかー」


 ザガンガ王国には娯楽が少ない。それだけが成果の旅の初日であった。
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