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魔王退治ととある商人の暗躍

国王と魔王の会談へ向けて

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『あぁ、今日もあの仕事かぁ』

 バルザーは今日も憂鬱ゆううつであった。

 作業員は、ザガンガ王国の外れ、森の奥地に転移陣で転送される。

 彼らは転移陣でどんどん運ばれてくる廃棄物をてる仕事をしている。

 トンボで転移陣からのけ、のけたものを明日来る分もてられるように運び出すのである。

『リーダー、これどこまで運びます?』

『明日も明後日もずーっとこの仕事はあるんだ。ずーっと奥だ、奥、奥』

 リーダーのズートゥーは、バルザーに聞かれ、嫌々ながら、そう答えた。

 キツくて汚くて危険。この仕事に配属されるものは、この仕事が好きな者は居ない。

『この服、動きづらいっスね。ちょっとまくろうかな』

 新入りのダルーギがちょっとでも作業しやすいように服装を乱そうとする。

『おい、新入り、馬鹿野郎!防護服は命綱だ!脱いで作業したら、今日のうちに毒が回ってあの世行きだからな。ぴっちり着直せ!』

『分ったよ。リーダー』

 ダルーギはズートゥーの怒鳴り声にビクッとして服装を正す。

『こんな所、長く居たくねぇ。さっさと終わらすぞ!お前ら』

『へぇ』

 長く居たくないのは皆同じ。やる気を無理矢理奮い立たせて黙々と仕事をする作業員であった。


     *


『魔王を城へ呼ぶか、王様がウンザバンテの森に出向いていただくか、どちらかお願いします』

 ウンザバンテの森で魔王、アンドレシロシウスと会った次の日、二郎じろうたちパーティーは、王に謁見えっけんし、現状打破のため、とりあえず、希望をぶつけてみた。

『王や一行は、魔法で守ります。安全はお任せ下さい』

 王はしばし考え、

『今すぐには判断できぬ。明日、このくらいの時間にもう一度参れ』

 二郎じろうたちパーティーは、謁見の間を後にし、またバーンクリット邸へお世話になろうと思って進んでいると、

『おぉおぉ勇者様ご一行、エンジンがうまい具合に出来上がりました』

 研究部会の人たちに捕まってしまった。

『エンジンができたのはいいのですが、これをどのように使えば良いのか勇者様にお伺いしたいと思っていたのです』

『ちょっとノートパソコンを取りに行くから待ってな。みなは先に研究部会の人たちと、部屋に行っておいてくれ』

 二郎はキャンピングカーに戻りノートパソコンを取り出すと、研究部会の部屋に行く。

『こういう使い方と、こういう使い方があるんだ』

 二郎は次々とエンジンの使い方を説明していく。研究部会のメンバーは次々とメモしていき、

『とても有意義な時間でした。いろいろと教えていただきありがとうございます。またご指導お願いします』

 1時間ずっと説明しっぱなしでやっと解放された。二郎は疲れていた。

『やっと解放された。バーンクリット邸へ行って早く休みたい』

 そう言って、一行はバーンクリット邸を目指すのであった。


『まぁ、お姉様。お帰りなさいませ』

 出迎えてくれたのはアヴァリンお嬢様であった。ほどなくしてリチャードお義父様とチャールズお義兄様が帰って来たので玄関ホールでお出迎えだ。

 そしてその後、まだ他の部屋をお片付け中のブレンナお義母様と合流して夕飯となる。

『王と魔王、アンドレシロシウスとの会談を志望しておりまして…』

『それは夕飯でして良い話ではないな。後で部屋を移してゆっくりと伺うよ』

 話題を打ち切られたので他の話題は…と考えて、研究部会の話しをする。

『おぉ。あの車というのが将来この国でも作られると?』

『はい。恐らく。それが平民も巻き込んで生産が始まれば社会が大きく動くことになると思います』

 二郎はバーンクリット家の人々に、エンジンや車がこちらで生産され始めると、どのような影響が出るか語り、夕食は終わった。


 夕食後、応接室に場所を移し、魔物について話し合いがもたれた。

『王城での仕事の終わり際に王族の重鎮を集めて、魔王について話し合いたいと王からお話しがあった。詳しい話は明日決めるという話であったが二郎君が関わっていたとは…』

 リチャードお義父様はそう言い、組んでいた足を組み替えて、

『王から詳しい話があるとは思うが、二郎君たちからも話は聞いておきたい』

 二郎は、魔王、アンドレシロシウスから話された話をバーンクリット家の面々に話した。

『つまり、魔王たちはこちらと争う意思はなく、自分たちの生活ができるなら、共存を望んでいると?』

『はい。魔王はそう話していました』

『で、魔王の影響力はどの辺りまであるのかね?上級の魔物までか、中級の魔物までか、末端まで支配できているのかね?』

『そこまでは聞いていませんでした』

『それでは情報が足りぬ。話し合いが持たれるなら、あちらからも、こちらからも、情報の開示は必要だ。順序としては、実務を把握しているある程度身分を持っている役人を派遣し、詳しく話をした後、現場に近い者同士との具体的な話し合いが持たれ、また身分を持っている役人との話し合い、それぞれの話し合いでどうするのか折衝案を策定し、折り合いが付いたらそれから王の安全を確実にしながら王と魔王との正式な約束事にしなければならない。恐らく最初から王と魔王との触接対談にはならないと思うよ』

『僕も父上の話は当然だと思う。全面的に賛成する』

 リチャードお義父様とチャールズお義兄様からそう話される。そこで、二郎は魔王との話し合いが、魔王への情報収集が不十分だったと痛感される。

『まぁ、これは一般的で常識的な話だ。恐らく王もこの方向で動くと思われる。しかし二郎君。君は君の持っている情報の少ない中よくやったと思うよ。双方に理をもたらす話し合いの端緒を持って来たのだからな。話し合いがどう転ぶか分らないが、話し合いで世の中を平定する希望が生まれた。最終的に話がうまくまとまるか、破談になるか、情報が少なすぎて分らないがかすかだが希望が生まれたことを、君の仕事を誇ってもいいと思うよ』

 二郎には足りない点が多々あった。しかしそれは、国が動こうとするなら時間はかかるかも知れないが希望が生まれたことは誇っていいとリチャードお義父様は言う。二郎は情報収集が足りなかったことを反省しながらも、少しは国のために役に立ったことに、胸をなで下ろすのであった。

『王には遅い時間に呼ばれたと言っていたが、君とエリアリアーナ私と一緒に城に登城しなさい。王には私から話しておく。昨日の王との謁見で知っていることを全て話したかも知れないが、会議に出席しなさい』

『はい。分りました。義父様』

 それで、応接室での話はお開きとなった。

 二郎はいつも借りている客室に戻り、魔王との話を、一応きちんとまとまっているが、復習のため、おさらいした。

 そして、かおると一緒に子供たちを風呂に入れ、寝られるように身なりを整えさせ、その日は家族一緒に眠るのであった。



 次の日、やはりいつものように家族で一番に目が覚めた。二郎は身なりを整えかおるが起きてくる。かおるが身なりを整えてから子供たちが起き出してくる。二郎はかおると子供たちの身なりを整えさせて、朝食に向かった。

『カーライルたちには済まないが、子供の面倒を見てもらう』

『分りました。お任せ下さい。勇者たちご夫妻の王城での話し合い、ご健闘をお祈りします』

 家族以外のパーティーメンバーに応援されながら、二郎とかおるは、お義父様、お義兄様、アヴァリンお嬢様と一緒に登城するのであった。


 登城すると、お義父様、お義兄様、アヴァリンお嬢様とは別行動だ。お義父様は王に二郎とかおるを会議に出席させたいと伝えると言い、お義兄様、アヴァリンお嬢様は、いつも仕事をしている部屋に向かった。二郎とかおるはまだ話が通っていないので、小応接室で待機だ。


 二郎とかおるは待っている間暇なので、家族について話し合いをした。事が片付いた後には2つの選択肢がある。日本に帰って日本の一般家庭として過ごす道、このままザガンガ王国に留まって仕事を探し、こちらに定住する道、それぞれのメリット、デメリット、既にどちらにも顔が知られているから互いの世界でのフォローの仕方、いろいろ話し合った。結論は出なかったが課題や問題点が整理されて有意義な時間であった。

 そう言った話し合いが終わっても呼ばれない。しばらく子供たちの成長具合について情報交換をしていると、ドアがノックされた。

『王族及び、国の重鎮の会議に特別に招待したいと王からのご指示です。案内しますのでご同行願います』

 話し合い本番が決まった。二郎とかおるは気を引き締めて会議場へ向かった。


 会議場にはアバン国王、リチャードお義父様と、ほぼ初対面の王国の重鎮が勢揃いしていた。二郎とかおるは末席に席を設けられ、会議が始まる。

 会議の始め、直接話をした者の話を聞きたいと説明を求められた。二郎は国王に報告した話、リチャードお義父様に話した話を元に、魔王との話し合いの内容を語った。

 その後の会議の内容は、リチャードお義父様が昨日、バーンクリット邸での話にあったとおり、国の担当部署の人間が細かい話をすり合わせるために、ウンザバンテの森の魔王、アンドレシロシウスと話し合いをすることに決まった。いきなり王と魔王の話し合いにはならず、アンドレシロシウスの希望には完全には添えなかったが王国は事の収集を図るため、動き出すことを決めたことには大きな意義がある。魔王も前進がないわけではないので渋々かも知れないが了承してくれるであろう。

 二郎はいい方向に前進することを期待し、実際に動き出すことを決めた王国側に感謝の念を抱きながら、二郎自身も平和解決のため折衝の役に立つぞと決意を固るのであった。
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