上 下
11 / 249
魔王退治ととある商人の暗躍

油は譲っていただけますか?

しおりを挟む
『まぁまぁまぁまぁ、皆様おそろいで。あら、お客様?』

 バーンクリット家にお泊まりが決定したそのすぐ後、銀色の髪を腰まで垂らし、紫色のローブを着た華麗なご婦人が居間にやって来た。

『ブレンナ、今頃お出ましか』

 お父様が少し不機嫌そうにそう言うと、

『そうは言いましても工房の大掃除は大変ですのよ! …ん?』

 華麗なご婦人は大掃除をしていたようだ。そのご婦人は、かおるを見つめ、

『どこかでお会いしませんでした?』

 そう言うのであった。

『お母様、お久しぶりです。エリアリアーナでございます』

 一瞬ご婦人が固まる。

『エ、エ、エ、本当にエリアリアーナなの?』

『シンロブモントおじさまに確認を取っていただきました』

『本当に、本当なのね?』

『はい』

 そう言うと、お母様は、かおるに抱きつき、

『よく無事で。よく無事で戻って来ました。母は嬉しいですよ!』

 かおるも抱きしめた。

『ただ今戻りました』


 かおるは、先ほどと同じように、文化も言葉も分らない、異世界日本に飛ばされ、孤児として苦労したこと、あちらではかおるという名で過ごしていたこと、俺と結婚して2児のママになったこと、今回勇者に選ばれた俺に引っ張られる形でこちらに戻って来たこと、勇者のパーティーとしてカーライルたちを付けられたこと、あまりにも辛い過去で、こちらで暮らしていたことを、つい最近思い出したことを簡素に、しかし要点は掴つかんで語った。


『まぁ、それは大変だったわね』


 お母様はそう言うと、かおるが飛ばされた後の話をしだした。

『エリアリアーナが飛ばされた後、転移魔法が使われたことは感知していましたから、アヴァリンに問い詰めましたが、アヴァリンも、意図してやったことではなく、言っていることの要領を得ませんでした。リチャードは、捜索に出ようと言い出しましたが、そもそもどこに探しに行って良いやら分らず、捜索願をあちこちに出すだけにとどまり、議論だけで月日は流れ、結局捜索には出なかったのです。まさか、異世界に飛ばされていたとは…。』

 お母様は、「お触れを出して、探しても見つからないはずだわ」。そうこぼすのであった。

 それで、捜索願を出したことによって、エリアリアーナの行方不明だけは世間に広がり、「私、あなたの娘なんです!」と、見ず知らずの娘が時々、何不自由ない暮らしに目がくらみ、やって来ては魔道具で確認して、追い払うということがあり、いつの間にかそれに慣れた。

『もう見つからないものと、一生会えないものとあきらめていたのですよ』


 話が一区切りついたのを見計らって、二郎が発言をする。

『あの、ご紹介いただいてよろしいでしょうか?』

『あら、まぁ、そういえば、まだだったわね』


 お父様はリチャード、お母様はブレンナ、お兄様はチャールズ、妹はもう紹介済みだがアヴァリンと言うらしい。

『そちらのご家族も紹介していただいてよろしいですか?』

 旦那の二郎、妻のかおる、長女の花菜香はなか、長男の風雅ふうがと順に紹介し、

『そして』

 剣士のジョルダン・カーライル、魔術師のカトリーナ・アンリエッタ、治癒魔術師のメリーア・メンドローサ、メイドのマヤ・ステインと、順に紹介するのであった。


『積もる話しもありますが、お時間ですし、お食事に致しましょう』


 俺たちは食堂に招かれ、

『さぁ、遠慮なく召し上がれ』

 出されたのは料理のフルコース。メインはお魚のフライであった。

「これで油はもらえるわね」

 かおるは嬉しそうにそう言うのであった。


 この家庭の味付けは城のものより味が濃かった。俺は「あぁ、馴染なじみの塩加減だ」と、顔をほころばせながら、美味しくいただいた。

 食事が終わると、風雅ふうがが、リチャードお義父様のところへトコトコトコと走って行き、袖も持って、

「じいじ、じいじ」

 と、言い出した。すると、部屋の空気が一瞬凍る。かおるは、

風雅ふうが!いけません!」

 と、かおる風雅ふうがを引き離す。

「おじいさまに年齢のことは言ってはなりません!リチャード様とお呼びなさい!」

 どうやらこの家庭では、年齢に関することはタブーらしい。

『なぁエリアリアーナ、外国語で分らなかったが、今、何やらイヤな呼ばれ方をしたような気がするのだが』

『聞き間違いではございませんか?何もありませんでしたわよ』

 「ホホホホホ」と言って、外国語であって、意味を取れないことをいいことに、かおるは必至に誤魔化ごまかそうとするのであった。



『…それでですね、お姉様にキャンピングカーに乗せてもらう約束をしたのですわよ』

『ほぉ。そんな珍しい乗り物ごと転移してきたのか』

 他愛のない話をしていると、話題はキャンピングカーに移った。

『何でも、燃料?に、調理場から出た油が必要とのことで、それでお姉様方は我が家にお戻りになったのですわ』

『まぁ、燃料は、馬にとってはエサみたいなものです』

『でも、車は生き物ではありませんのよ』


 バーンクリット家の面々は、キャンピングカーに興味を持ち、明日、みなを乗せてドライブに行くことに決まった。



 あくる日、二郎はいつもの通り、家族で一番に目が覚め、身支度を調えつつ、セバテベスさんに油を用意してもらい、キャンピングカーのもとへ行って、まず、後ろのタンクの燃料を車に入れ、空になったタンクに、今もらった油をこしながら入れていくのであった。

「大勢で食べるとてんぷら油も大量だな。タンクがいっぱいになった」

 客室に戻ると、かおるがちょうど起きた頃だった。

「あなた、いつも早いわね」

「ちょっとキャンピングカーに油を入れてきた。後ろのタンク、いっぱいになったよ」

「あらそうなの。置いておいてもらえば、結構油の心配ってそれほど気にするものじゃないかもね」

 そう話していると、

「ママ、パパ、おはよう」

 子供たちも起き出すのであった。


 朝食の席で、リチャードお義父様は執事のセバテベスさんに、

『今日の登城は昼からにする。そう、城には伝えてくれ』

『かしこましました』


 朝食が終わり、キャンピングカーを玄関に回してきた。しかし、全員は乗れない。そこで乗るのは麻宗家一家と、バーンクリット家一家に、念のため、カーライルに乗ってもらい、アンリエッタ、メンドローサ、ステインには家で留守番をしてもらうことにした。

 全員を乗せ、

『さぁ、出発!』

 俺の運転で、かおるを助手席に乗せて、キャンピングカーは出発したのであった。

 城下町の徐行区間を抜け、東門から出てしばし。人気のない街道が続く。

『わぁ、速いしあまりねないですわね』

『椅子がふかふかだな。どんな構造になっているのだろう?』

 バーンクリット家の面々は、初めての車に年も性別もなくはしゃいでいた。

 俺は調子に乗って、アクセルをべた踏みし、全速力を出してみる。

『おぉ、速い速い!』

 バーンクリット家に面々には好評のようだ。

 そしてしばらくして、かおるは、

「チッ、邪魔ね」

 と、言い、

『大気を潤す大いなる風の神よ、我に大いなる力を分け与えたまえ』

 かおるさん、何か唱え始めちゃったんですけど、

『スペシャル・ブラスト!』

 すると、道の先の先のずーっと先で、で砂埃すなぼこりが舞う。

「なぁかおる、何したんだい?」

「ちょっとゴミ掃除を」

 …深く聞くのはめておこう。何だか怖い。

 しばらくすると、あまり身なりの良くないゴロツキが、道を空けるように、道の両端に倒れ伏しているのが一瞬見えた。

「あれ、かおるがやったのか?」

「まぁね♪」

 そこ、あまり機嫌を良くするところじゃないと思うんですけど!

「ちょっと速度を落として!」

 ふいにかおるがそんなことを言う。

 俺は速度を落とし、かおるの言うように運転する。

「そこの洞窟に入ってね」

『ほぉ。ドルゴネルの洞窟か』

 そこはトンネルのような洞窟であった。

 俺は、電動モードに切り替えて、ライトを付けて、さらに速度を落として進む。

「もうそろそろかしら。止まってライトを消してね」

 俺は言われたとおりにする。

『ほぉ』

『これはまた』

 洞窟をしばらく走り、もう全く光が入ってこないはずであった。しかし、壁がほんのり緑の光を放ち、幻想的な風景になっていた。

『こんなに奥へ入ったのなんて初めて』

『ほぉ。奥はこんなにもバトクリフ苔がいっぱいなのか』

 綺麗な光景に、全員、しばらく見とれていた。



「さぁ、もう少し走ると開けた場所に出るわ。そこでUターンしましょう」

 言われるがままに走ると本当に開けた場所へ出た。そこで車をUターンさせ、来た道を戻る。

『エリアリアーナ、お前の誘導ゆうどうだろ?腕を上げたな』

『いいえ、魔法の練習なんて、長いことしていませんでしたから、あの頃のままですわ』



 そして、王都のバーンクリット邸へと戻り、ちょっとした家族小旅行が終わった。

『あんなに速く走るのに揺れが少なかったな』

『水飲みや休ませる手間がかからなくていいわね』

 バーンクリット家の面々は様々な感想を言い合っていたが、

『車って便利ですわね』

 その一言に、尽きると思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

おっさんの異世界建国記

なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

処理中です...