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第二百五話 人になっても変わらない
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「レクス様!!何故、ドアの向こうからここに!?はっ、もしかして私の黒歴史から来たのですか!!」
「………………」
見知らぬ男からいきなり様づけで呼ばれて俺は意味が分からずに戸惑った、その男は今俺が出てきたドアをガッと勢いよく開けて中身を確認していた。やがて何か納得したのかふうっと息を吐いて、そのドアを閉めてそこにもたれかかって額の汗をぬぐっていた。その間に俺は男を観察していたが、誰なんだこいつは?俺はミゼの心の中に入ったと思った、だが何か失敗したのだろうか。しばらくするとその男は俺の前に歩いてきて、礼儀正しく一礼してからハキハキと喋り出した。
「レクス様、幸いなことにあれぐらいならセーフでございます、私の封印した黒歴史では全くありません。まぁ、週末のルーチンワーク、酒飲みならば日常でございます。…………もっとヤバいのがバレなくて良かった、実は昔はコスプレしてたとか、週一でメイド喫茶に通ってたとか、他にはええと18禁の嫁たちと戯れてるところだとか、まだいろいろとあったような気がするけどええい忘れましょう!!」
「………………」
俺はこの喋り方と意味が全く分からない会話の仕方に覚えがあり過ぎた、従魔であるミゼがこんなふうに意味の分からないことを喋ることが今までに沢山あったからだ。とするとこの俺よりも年上の男はミゼなのだろうか、どうして人間になっているんだ。あっ、大賢者ラウトが何か大切なことを言っていたような気がする。
『この魔法は案内人として心の中の主人が出てくるはずだ、案内人を見つけたら彼が全て指示してくれる』
確かこんなことを大賢者ラウトの影は言っていた、この魔法を動物に使ったものが今までにいなかったに違いない。動物はペットなど人間に飼われていると自分を人間だと思い込むことがあるという、ミゼもそれに近い状態なのではないのだろうか。普段から自分の姿についてなんで私は肉球ぷにぷになのかとか、かなり猫の姿に不満を抱いているようだったから、せめて心の中で人間の姿になっているのかもしれない。俺は一応は自分がたてた仮説を証明するため、確認の為にその年上の男に話しかけてみた。
「………………一応聞くが、お前はミゼなのか?」
「はい、私はミゼラーレことミゼでございます。ふっ、レクス様。人間である私の凛々しい中年としての貫禄に驚いてらっしゃいますね。実は私はレクス様よりもずっと年上でございます、ええ悲しいことに賢者になってしまうほど、清らかでしっかりとした大人なのでございますよ」
「………………賢者になれることのどこが悲しいんだ、頭が良いってことは素晴らしいことじゃないのか」
「ああ、レクス様。賢者にもいろいろとあるのですよ。とある世界ではある悲しいというか、寂しいというか、何と言えばいいんでしょうね。とにかく特殊な条件を満たせばです、三十歳を超えた男性は自動的に賢者になれるのですよ」
「………………よく分からんが、そのわけの分からないところがお前らしいな。人間になっても、ミゼはミゼだな」
「もっちろん私は私ですとも、こんなに愛らしくユーモアに溢れた中年男性はなかなかおりませんよ。ああ、この姿。なんだかしっくりとします、随分と昔に帰ってきた故郷にいるようです。さぁ、レクス様。それではヴァンパイアたちの本当の王国について探しましょう!!」
自称ミゼという年上の男性の言葉に俺はハッとして我に返った、その通り俺はミゼの心の中に高位ヴァンパイアたちがいる本当の王国、それを探しにわざわざ来たのだった。なんだかいろいろと衝撃を受けたせいで頭がまわらなくなっていた、それにこの俺と同じか少し高い身長の男にどうにも慣れない。話してみると中身は残念なミゼだとすぐ分かったがそれだけに違和感が凄かった、見た目だけなら頼りがいのある貴族と言ってもとおるかもしれない。ただし、黙って笑って立っていれたらの話だ。
「ラウトは案内人が全て指示してくれると言っていたが……、ミゼ。お前でもヴァンパイアたちがいる本当の王国は分からないのか?」
「それがでございますね、いろいろと懐かしくてさまざまなドアを開けてみたのですが、レクス様が探している記憶にはまだ辿り着けておりません。ええと、決して久しぶりにあった二次元にいる嫁コレクションなどを堪能していたわけではございません。はい、私も必死に探しておりました。ええ、それはもう真剣に探していました!!」
ああ、間違いないこいつは中身はミゼだ。おそらくは最初の目的をすっかり忘れて、自分の記憶を楽しむのに夢中になっていたに違いない。俺のこともちゃんと探していたのか怪しいものだ、しかしこれは少しばかり困ったことになった。ラウトの話が正しければ案内人のミゼさえ見つければ、すぐにヴァンパイアたちがいる本当の王国も分かるものだと思っていた。魔法をかけている対象が猫だから上手くいっていないのかもしれない、案内人が猫じゃなくて人間になっていることからしておかしかった。
「それじゃ、片っ端からドアを開けてみるか」
「ああ、それなのですがレクス様。どうもドアに法則があるようなのです、茶色や灰色のドアはあまり意味がない風景、赤やピンクのドアはちょっと恥ずかしいこと、それに黒いドア…………これは決して開けてはいけません。他にもいろんなドアがありますが、開けて調べるのならそれ以外のドアです。猫である私の記憶はどうも白いドア、このドアに限られているようなのです」
「そうか、それなら手分けして白いドアを開けてみよう」
「はい、分かりました。…………ええと、もう一度念をおしておきますが黒いドアにはくれぐれもご注意ください。何が中に入っているのか私でも分かりません、開けるとひどく恐ろしい目にあうかもしれませんよ」
「………………分かった、とにかく白いドアを開けていくぞ」
「レクス様!?その短い沈黙はなんなのです!?まさかもう黒いドアを開けてきたんじゃないですよね、決してそんなことはありませんよね!!」
実はもう黒いドアは一度開けているのだが、少年がハーレムがどうとかずっと言っていただけで別に害は無かった。あれは気のせいだったのかもしれない、きっと違う色のドアだったのだろう。濃い目の灰色のドアだったのだ、そう俺は既にやってしまったことをなかったことにして、白いドアを開けてみることにした。ミゼという男はまだうるさく本当に黒いドアを開けていないか聞いてきたが、俺はそれよりもこの魔法がいつまで続くのかが心配だった。
「うるさい、いつまでここにいられるか分からん。さっさと白いドアを開けて記憶を探せ!!」
「はいっ!!でございます、………………黒いドアの中身なんて壊して、全てなかったことにできたらいいのに」
それから俺たちは二人で手分けして、でもあまり離れすぎないようにしながら、白いドアを開けてまわることにした。少しだけ白いドアを開けて様子をみる、すると猫のミゼが宿屋でだらしなく寝ていたり、かと思うと迷宮で俺たちが戦っている間に見張りをしていたり、飯屋でファンから食事をもらって喜んでいたりしていた。確かに白いドアは猫のミゼに関係しているようだ、黒猫なのに何故白いドアなのかこのドアの色の法則はよく分からない。
「一体どこにあるんだ、お前の高位ヴァンパイアたちがいる本当の王国の記憶は!?」
「私がそれを聞いたのは従魔にされてからですからね、ローズ様への贈り物になる前にその御父上でしょうか。高位ヴァンパイアだった方が王国について話されていたことを聞いたのです、いずれはローズも連れていかなければならないとおっしゃっていましたね」
「そこまで覚えていて王国の場所は分からないのか?」
「うーん、それがどうも曖昧なのです。ほらっ、あまり興味のないことって聞き流してしまうでしょう。私にとってはこれから主人になる予定だったローズ様の性格のほうが大事だったわけで、ヴァンパイアたちの王国などはいずれ行くのかなーっとその程度の話題でした」
ミゼはどこまでいっても、たとえ人間になったとしてもミゼである。いろんな知識を知っているわりに偶にしか役に立たないし、言っていることが分からないことが多すぎる。俺が心的に疲れて来た時だった、何気なく開けた白いドアから低い落ち着いた男性の声が聞こえてきた。
「………………ヴァンパイアの王に拝謁しなくてはならない、あの呪われたブラインド・アリー海にある岩の絶壁で囲まれた真の王国、そうアンペラトリスに我が娘ローズもいずれは行かなくてはならない」
「………………」
見知らぬ男からいきなり様づけで呼ばれて俺は意味が分からずに戸惑った、その男は今俺が出てきたドアをガッと勢いよく開けて中身を確認していた。やがて何か納得したのかふうっと息を吐いて、そのドアを閉めてそこにもたれかかって額の汗をぬぐっていた。その間に俺は男を観察していたが、誰なんだこいつは?俺はミゼの心の中に入ったと思った、だが何か失敗したのだろうか。しばらくするとその男は俺の前に歩いてきて、礼儀正しく一礼してからハキハキと喋り出した。
「レクス様、幸いなことにあれぐらいならセーフでございます、私の封印した黒歴史では全くありません。まぁ、週末のルーチンワーク、酒飲みならば日常でございます。…………もっとヤバいのがバレなくて良かった、実は昔はコスプレしてたとか、週一でメイド喫茶に通ってたとか、他にはええと18禁の嫁たちと戯れてるところだとか、まだいろいろとあったような気がするけどええい忘れましょう!!」
「………………」
俺はこの喋り方と意味が全く分からない会話の仕方に覚えがあり過ぎた、従魔であるミゼがこんなふうに意味の分からないことを喋ることが今までに沢山あったからだ。とするとこの俺よりも年上の男はミゼなのだろうか、どうして人間になっているんだ。あっ、大賢者ラウトが何か大切なことを言っていたような気がする。
『この魔法は案内人として心の中の主人が出てくるはずだ、案内人を見つけたら彼が全て指示してくれる』
確かこんなことを大賢者ラウトの影は言っていた、この魔法を動物に使ったものが今までにいなかったに違いない。動物はペットなど人間に飼われていると自分を人間だと思い込むことがあるという、ミゼもそれに近い状態なのではないのだろうか。普段から自分の姿についてなんで私は肉球ぷにぷになのかとか、かなり猫の姿に不満を抱いているようだったから、せめて心の中で人間の姿になっているのかもしれない。俺は一応は自分がたてた仮説を証明するため、確認の為にその年上の男に話しかけてみた。
「………………一応聞くが、お前はミゼなのか?」
「はい、私はミゼラーレことミゼでございます。ふっ、レクス様。人間である私の凛々しい中年としての貫禄に驚いてらっしゃいますね。実は私はレクス様よりもずっと年上でございます、ええ悲しいことに賢者になってしまうほど、清らかでしっかりとした大人なのでございますよ」
「………………賢者になれることのどこが悲しいんだ、頭が良いってことは素晴らしいことじゃないのか」
「ああ、レクス様。賢者にもいろいろとあるのですよ。とある世界ではある悲しいというか、寂しいというか、何と言えばいいんでしょうね。とにかく特殊な条件を満たせばです、三十歳を超えた男性は自動的に賢者になれるのですよ」
「………………よく分からんが、そのわけの分からないところがお前らしいな。人間になっても、ミゼはミゼだな」
「もっちろん私は私ですとも、こんなに愛らしくユーモアに溢れた中年男性はなかなかおりませんよ。ああ、この姿。なんだかしっくりとします、随分と昔に帰ってきた故郷にいるようです。さぁ、レクス様。それではヴァンパイアたちの本当の王国について探しましょう!!」
自称ミゼという年上の男性の言葉に俺はハッとして我に返った、その通り俺はミゼの心の中に高位ヴァンパイアたちがいる本当の王国、それを探しにわざわざ来たのだった。なんだかいろいろと衝撃を受けたせいで頭がまわらなくなっていた、それにこの俺と同じか少し高い身長の男にどうにも慣れない。話してみると中身は残念なミゼだとすぐ分かったがそれだけに違和感が凄かった、見た目だけなら頼りがいのある貴族と言ってもとおるかもしれない。ただし、黙って笑って立っていれたらの話だ。
「ラウトは案内人が全て指示してくれると言っていたが……、ミゼ。お前でもヴァンパイアたちがいる本当の王国は分からないのか?」
「それがでございますね、いろいろと懐かしくてさまざまなドアを開けてみたのですが、レクス様が探している記憶にはまだ辿り着けておりません。ええと、決して久しぶりにあった二次元にいる嫁コレクションなどを堪能していたわけではございません。はい、私も必死に探しておりました。ええ、それはもう真剣に探していました!!」
ああ、間違いないこいつは中身はミゼだ。おそらくは最初の目的をすっかり忘れて、自分の記憶を楽しむのに夢中になっていたに違いない。俺のこともちゃんと探していたのか怪しいものだ、しかしこれは少しばかり困ったことになった。ラウトの話が正しければ案内人のミゼさえ見つければ、すぐにヴァンパイアたちがいる本当の王国も分かるものだと思っていた。魔法をかけている対象が猫だから上手くいっていないのかもしれない、案内人が猫じゃなくて人間になっていることからしておかしかった。
「それじゃ、片っ端からドアを開けてみるか」
「ああ、それなのですがレクス様。どうもドアに法則があるようなのです、茶色や灰色のドアはあまり意味がない風景、赤やピンクのドアはちょっと恥ずかしいこと、それに黒いドア…………これは決して開けてはいけません。他にもいろんなドアがありますが、開けて調べるのならそれ以外のドアです。猫である私の記憶はどうも白いドア、このドアに限られているようなのです」
「そうか、それなら手分けして白いドアを開けてみよう」
「はい、分かりました。…………ええと、もう一度念をおしておきますが黒いドアにはくれぐれもご注意ください。何が中に入っているのか私でも分かりません、開けるとひどく恐ろしい目にあうかもしれませんよ」
「………………分かった、とにかく白いドアを開けていくぞ」
「レクス様!?その短い沈黙はなんなのです!?まさかもう黒いドアを開けてきたんじゃないですよね、決してそんなことはありませんよね!!」
実はもう黒いドアは一度開けているのだが、少年がハーレムがどうとかずっと言っていただけで別に害は無かった。あれは気のせいだったのかもしれない、きっと違う色のドアだったのだろう。濃い目の灰色のドアだったのだ、そう俺は既にやってしまったことをなかったことにして、白いドアを開けてみることにした。ミゼという男はまだうるさく本当に黒いドアを開けていないか聞いてきたが、俺はそれよりもこの魔法がいつまで続くのかが心配だった。
「うるさい、いつまでここにいられるか分からん。さっさと白いドアを開けて記憶を探せ!!」
「はいっ!!でございます、………………黒いドアの中身なんて壊して、全てなかったことにできたらいいのに」
それから俺たちは二人で手分けして、でもあまり離れすぎないようにしながら、白いドアを開けてまわることにした。少しだけ白いドアを開けて様子をみる、すると猫のミゼが宿屋でだらしなく寝ていたり、かと思うと迷宮で俺たちが戦っている間に見張りをしていたり、飯屋でファンから食事をもらって喜んでいたりしていた。確かに白いドアは猫のミゼに関係しているようだ、黒猫なのに何故白いドアなのかこのドアの色の法則はよく分からない。
「一体どこにあるんだ、お前の高位ヴァンパイアたちがいる本当の王国の記憶は!?」
「私がそれを聞いたのは従魔にされてからですからね、ローズ様への贈り物になる前にその御父上でしょうか。高位ヴァンパイアだった方が王国について話されていたことを聞いたのです、いずれはローズも連れていかなければならないとおっしゃっていましたね」
「そこまで覚えていて王国の場所は分からないのか?」
「うーん、それがどうも曖昧なのです。ほらっ、あまり興味のないことって聞き流してしまうでしょう。私にとってはこれから主人になる予定だったローズ様の性格のほうが大事だったわけで、ヴァンパイアたちの王国などはいずれ行くのかなーっとその程度の話題でした」
ミゼはどこまでいっても、たとえ人間になったとしてもミゼである。いろんな知識を知っているわりに偶にしか役に立たないし、言っていることが分からないことが多すぎる。俺が心的に疲れて来た時だった、何気なく開けた白いドアから低い落ち着いた男性の声が聞こえてきた。
「………………ヴァンパイアの王に拝謁しなくてはならない、あの呪われたブラインド・アリー海にある岩の絶壁で囲まれた真の王国、そうアンペラトリスに我が娘ローズもいずれは行かなくてはならない」
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