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第百七十二話 親子は不幸を望まない

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「なっ、なんていうことでしょう。オッドさん、貴方のような方をヒモ男と呼ぶのですよ!!」

ミゼはオッドの生活に衝撃を受けたようで、また妙なこと言いだした。ヒモ男とは何だろうか、紐のように細い男のことだろうか。俺の疑問をオッドがミゼに素直に聞いていた。

「ヒモ男とはなんであるか、私は誇り高い高位ヴァンパイアなのだが」
「オッドさん、ヒモ男とは女性の恋愛感情を利用して、お金や物を貢がせる最低な男性です!!」

「なっ!?私はそんな者とは違うのである、誇り高く生きる高位ヴァンパイアなのだ」
「では、私の質問に答えていただけますか?」

盗賊退治をしていて森の中で夜になったから、ファンが狩ってくれていたデビルボアで食事をすることになった。そうしてオッドの今までの生活を聞いてみると、突然ミゼがオッドを問い詰め始めた。

「服装や髪形をやたら気にしていたり、それを褒められると喜んだりしていませんか」
「身なりを整えるのは紳士として当たり前のことである、それを褒められるということは努力が報われているのだ」

「財布を持っていなくても良くて、女性といる時には家事などをしていませんか。そして、お仕事が何故か続かなかったりしてませんか」
「財布は城を襲われた時に持ってこれなかったのである、金銭や物をくれる女性へお礼の労働をするのは当然だ。仕事は……、に、人間が怖いからなかなか続かないのである」

「女性への感謝が過ぎたりしてませんか、優しくしてくれる彼女たちが一番だと思ったり、そのことを褒め過ぎてはいませんか」
「金銭や物をくれる女性は皆とても優しい者たちだ、だから感謝もするしその時は一番素晴らしい女性として、正直に褒めたたえることもあるのだ」

「何か大きなことを女性に言ったり、女性に欲しい物をつい言ってしまったりしていませんか」
「大きなことなど何も言っていないのである、私は常に高位ヴァンパイアにふさわしい態度でいたいのだ、欲しい物は何も言わなくても勝手に女性が買ってくれるのである」

とりあえずミゼは一通り尋問を終えたようだ、オッドの方を見るのを止めて俺の方に振り返った。そして、ひとしきり俺に抗議の声を上げ続けた。

「高位ヴァンパイアとか言って、やってることはヒモ男と変わりありません。レクス様、ずるいです。高位ヴァンパイアなんて中二病全開なのに、実は女性に甘え上手なずるいヒモ男なのです!!」

俺はミゼが言っていたヒモ男とやらの特徴を考えてみる、そしてよく考えてから逆に同じようなことをミゼに問い詰めてみた。

「ミゼ、お前だってやたらと毛づくろいしているし、女の子に褒められると舞い上がったりしているだろう」
「えっ!?いやそれは!!」

「財布ももっていないし、野宿の時なんか生き生きと家事を手伝うよな。そして、お前は仕事というものが大嫌いだ」
「はうっ!?うぐぐっ」

「可愛くて綺麗な女の子にすぐ感謝するし、過剰に彼女たちを褒めたたえるし、その時は優しくしてくれるその女の子を一番だと思っているだろう」
「うぐわっ!?げほっ!!」

「女の子に対して自分は愛玩用の素晴らしい従魔だと言ったり、お前は隠していたが欲しい物をさりげなくおねだりしていたこともあったな」
「ぎゃあ!?も、もう止めてください。私のライフは0でございます!!」

俺は美味いスープを飲むのを一旦止めて、地面でのたうち回っているミゼの方を見て、はっきりきっぱりと言っておく。

「ミゼ、お前ってヒモ男だったんだな」
「いいいいいいいい、いいえ、まっさか!!私はヒモ男などではないのです。ないったらないのです!!ねぇ、そうでしょう。ディーレさん、ファンさん」

ディーレはデビルボアの串焼きを食べながら少し考えていた、ファンも同じようにもぐもぐと串焼きを食べながら考えて答えるのに少し時間がかかった。だが、二人の答えは似たようなものだった。

「ミゼさん、己を見つめなおす良い機会ではないでしょうか。神はいつも公平に、貴方を見守っておられます」
「そうか、ミゼってヒモ男っていうんだ。あはははっ、確かに特徴が全部当てはまってるかも」

ミゼは特にいつも可愛がって貰っているファンからの言葉に衝撃を受けたようだ、オッドのことを言っていたはずなのに自分自身を打ちのめしていた。

「なんという言葉のブーメラン、オッドさん。貴方は結構、ご苦労されているのですね」
「うむ、よく分からないが苦労はそこそこしている、私はミゼ殿が言うヒモ男などでない。私は誇り高い高位ヴァンパイアなのだ」

俺からしたらオッドもミゼも変わりはないような気がする、だが美味い料理は美味しくいただきたいのでそれ以上は何も言わず、ただ骨や肉のうま味がよく溶けているスープを飲んだ。

それから野宿をすることになったが、俺とファンが交代で見張りをすることは変わりなかった。オッドは野宿でもあっという間に寝てしまった、地面に天幕張って毛布を敷いているだけの粗末な寝床だが、またスヤスヤと子どものように眠ってしまっていた。その晩は他に何も起こらなかった、そして俺たちの旅は続いていった。

「オッド、お前は鳥以外にも狩りができるようになった方が良くないか」
「そうであるか、鳥さえ狩れれば血が飲めるし、肉も食べれるのである。それ以外に必要なものは、人のいる街や都に行けば、何故か女性がくれるのだ」

それは果たして高位ヴァンパイアとして正しい生き方なのだろうか、まぁ本人や周りの人間が納得しているのならいいのだろう。他にも俺は聞きたいことがいろいろあったので質問してみた。

「オッド、仮にだがヴァンパイアの王が退位したいと言ったら、それは通用するだろうか」
「うむ、それは難しいのだ。私もヴァンパイアの王にはそのままでいて欲しい、何故なら祝福されし者が我々を見捨てないということは、我々が彼らに認められた誇り高いヴァンパイアという種族だということになるからだ」

「そうか、それがお前たちの誇りなんだな」
「親に見捨てられたい子どもはいない、だから最後の祝福されし者である王は、我々の誇りであり最後の希望なのだ」

「もし、それがヴァンパイアの王自身を不幸にするとしても続けたいか」
「……私は祝福されし者と人間の純粋な子どもではない、その子孫に当たるから言えるが、王自身が望むなら退位も受け入れるのである。親の不幸を望む子どももまたいないのだ」

「王が望むならか、フェリ……。ヴァンパイアの王は何を考えているんだろうな」
「ヴァンパイアの王がいつも考えているのは慈愛、我々ヴァンパイアへの子供を慈しむような心、可愛がるような深い愛情である。私も若い頃には王の傍を離れたくなかった、大人になって外の世界を見たくなって旅に出たが、私に息子ができたらまた王にお見せしたいのである」

そう言って笑うオッドは幸せそうだった、そんな顔を見せられたらフェリシアをヴァンパイアの王という地位、そこから解放したいと思っている俺はまた迷ってしまう。ヴァンパイアも大人しいオッドのように、残酷で人間を下に見ている奴ばかりではないようだ。

オッドといるとヴァンパイアを敵視することが難しくなった、キリルのように分かりやすく俺を憎んでくれるなら、俺も高位ヴァンパイアは全て敵だと思って戦える。だがそうではない者もいる、果たして次にフェリシアに会った時、俺は何を言えるのだろう。

そんなふうにオッドと親しくなりながら旅は続いていった、そうして一月が経った時のことだ、ビーノという街に立ち寄ったら、入り口で奇妙な検査をやっていた。聖水を街に入る者全てに飲ませているのだ、それに銀でできている神の像に手を触れさせている。『強きストロ太陽の光ングサンシャイン』の魔法が十人ずつくらいに分けられた人に使われていた、これはヴァンパイアを見分ける検査だ。俺は街に入る列に並んでいたが、そっとオッドに耳打ちする。

「オッド、大丈夫か。今ならこの街には入らずにすむぞ」
「だ、だ、大丈夫だ。人間は聖水や聖遺物でヴァンパイアを判断するが、実はそれは効果がないのだ。それに下位や中位のヴァンパイアなら通用する太陽の光も、高位ヴァンパイアの私には効かない」

俺たちはオッドの言葉を信じて、ビーノの街に入ろうとした。そうしていたら、突然前の方の列が騒めいた、小柄な女らしき者が一人深くフード付きのマントを来て列を外れて歩き出した。それを門番に咎められて、引きとめられていた。

「街になんて入らないわ、だからもう放して!!」
「いや、検査を受けてから、出て行って貰う。最近、ヴァンパイアの被害が多いから検査は止められない」

時間は夕暮れから夜にさしかかろうとしていた、女は門番の手を振り払って逃げ出した。その時に俺たちとすれ違う、ちらりとフードの奥が見えたが短い白髪に青い目をした美しい女だった。すると突然、オッドがその女を追いかけ始めた。

「どうした、オッド。何をする気だ!!」

俺たちもオッドを放っておけなくて、街への列から離れて女を追いかける形になった。光を恐れることからして、下位か中位のヴァンパイアなのだろう。そんな女を追いかけながら、オッドは思いもしないことを言いだした。

「どうか振り向いてくれ、ずっと待っていたんだ、私の愛しい花嫁!!」
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